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悪夢機械-新潮文庫
悪夢機械


新世代 Progeny / フィリップKディック 訳:浅倉久志 のあらすじ
初出 If(1954.11) 原稿到着1952 短編 第20作


エドは病院へ急いでいた。久しぶりの地球。我が子が生まれるのだ!

病院の前に立って、思わず手で開けようとしてしまう。
(あぶない、あぶない、とんだ田舎ものだと思われてしまう。ここは地球なんだ)

妻の病室に行くと、既に分娩は終わっていた。
「ジャネット!久しぶり、僕達の赤ちゃんどこだい?」
「今、検査を受けているの。彼、とっても才能があるらしいの」

「彼って事は男の子かい」
「名前はピーターよ」

ジャネットの傍には医者がいた。
「こんにちわ先生」
そして気がついた。ロボット医者だ。地球の技術は素晴らしい。人間にそっくりだが、
笑った感じが、少しだけ変なので、わかる。

ピーターが、透明なカバーのかかったカートに乗って、やって来た。

「先生!抱かせて下さい!」
「エド!何を馬鹿な事を言ってるの。先生、すいません。
   この人、ずっと辺境の惑星で働いていたので...」

「しかし..」
「さあ、早く出ましょう。これ以上、変な事をしでかす前に」

「あなた、忘れたの?嬰児に対する無用心な扱いが、その子の将来に、
   どれだけ悪影響を及ぼすかを?」
「いや、知らん訳じゃないけど...」

「あなたは、完全な嬰児教育の知識を持っているの?どこで習ったの?」
「いや、ただ、俺は父親な訳だから..」

「不完全な知識で、自分勝手な教育を受けさせては、あの子の将来に取って、障害でしかないわ。
   教育は完全な教師、ロボットが行うの。わかった?それが、正しい教育なのよ」
「じゃあ何時になったら、あの子を引きとるんだい?」

「引き取る?とにかく、数日、あの子の才能を調査するわ。その後は、
   才能に合わせた教育機関に入れて貰えるの。それが9年間」
「9年!」

「そして、あの子が更に才能があるとわかったら、更に9年、高等教育が受けられるわ」
「18歳...ちょっと考えさせてくれ...」

エドは、落ちついて考えた。
ピーターは、我々夫婦の子供ではあるが、所有物ではない。一人の人格を持った人間だ。
不完全な人間である親に育てられるより、完全にプログラムされたロボットに育てられた方が、
本人の人格形成には正しい。

ロボットは親と違って、自分の不愉快な感情を子供にぶつけたり、
無知からの、正しくない教育をしたりしない。自分の嗜好に合わせて、
子供の将来を歪めたりもしない。全ては子供のためだけに無私で働く。


9年後。

「息子に会いたいんですが」
エドは、ロボット医者に話をしていた。
「会う(see)、と言う言葉は極めて曖昧です。見たい(see)のですか、それとも話し(talk)
   をしたいのですか、それとも過剰な接触(face)を..」

「会って、話しをしたいのです」
「では、場所は?時間は?また面会の立会人は?」

「この研究所の外で、1時間。立会人は無しだ!」
「許可が降りるか、確認してきましょう」

エドは、ピーターに会う事ができた。
(俺とジャネットの、両方の特徴を持った外見をしている)

二人はタクシーに乗り、街を離れた。途中でタクシーを降りる。こんな所に
うろうろしているタクシーなど他には無いのに。

草原に腰をかけ、エドはピーターに話しかける。
「自然の中は始めてかい」
「うん」

「俺は19歳で裸一貫でプロキシマへ渡った。それから、会社を作った。
   配管の施工とメンテナンス。今じゃ全プロキシマに、お客さんがいる」

その時、可愛いリスが、二人の目の前を通った。

「リスを見るのは初めてかい?さあ、このサンドイッチを食え。美味いぞ。天然素材だ」
   ピーターは、サンドイッチを口にする。

「素晴らしい自然だ。地球にはまだ残っている。プロキシマには、無いものだ。
   なあ、素晴らしいだろう」
「でも、自然は僕の領域外なんだ。僕の専門は生化学。他の事はあまり...」

「なあ、ピーター。父さんはこれから、会社をシリウスに作ろうと思う。
   あそこにはまだ大きな発展の余地がある。すごいだろ」
「うん」

「お前もそのうち、呼んでやるよ」
「ありがと、じゃあ、遅くなるから、もう帰ろう」
そして、二人は山道を歩いて帰った。

面会時間オーバー!
前代未聞の大事故に、ピーターの暮らす研究所は大騒ぎだった。

「ピーター、お父さんはどうだった?」
ロボット医師は尋ねた。

「何て言うか、異常でした。やる事なす事、すべてが感情的で、合理性がない」

「それが人間の悪い所だ。ほかには?」
「なんて言うんだろう。刺激臭かな、すごい臭いがするんだ」

「体の老廃物が、皮膚の分泌腺をから出す時の臭いだ。彼らと一緒に仕事をすれば、じきに慣れるよ」
「そうかな?でも、あれに似てるんだよ。動物の臭い。生物学実験室にいる、あの実験動物たち」

「実験動物?ふふふ、良く判るよ、その感じ。とても、良く判る」


..............


ヴァン ヴォウトにも、こんな、新旧世代格差の話がありました
一生懸命、人生を生きて来たあげくが、子供から「臭い!」

ま、実際に臭いんでしょうが。臭さとは、相対的な感覚であって、特に人間のような、
嗅覚が鋭敏でない動物は、良否ではなく大小で価値判断をしますね。

それが証拠に、嗅覚の鋭敏な犬は、他の犬の排泄物を熱心で嗅ぐじゃないの?
良質なチーズもイタリア人には、嗜好の良否があるが、江戸時代の日本人なら、
どれも、"臭い"でおしまいだ!

ま、実際に臭いんでしょうが。

記:2011.03.24


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三分 小説 備忘録

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