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悪夢機械-新潮文庫
悪夢機械


スパイはだれだ Shell game / フィリップKディック 訳:浅倉久志 のあらすじ
初出 Galaxy(1954.9) 原稿到着1953 短編 第57作


オキーフは、物音で目覚めた。
「敵だ!」
警報ボックスを蹴破り、非常ベルが鳴る。
防衛隊のフィッシャーが叫ぶ。
「敵はどこだ!」

「道路の脇を伝って来たんだ。だからレーダーには引っかからない。
   俺が心配していた通りになった!」
大型砲の準備が出来た。敵の攻撃はない。
隊長のシルバーマンが聞いた。

「オキーフ、何を見たんだ?」
「見てはいない。音を聞いたんだ。やつらが這って、この基地に近づき、
   ホースを伸ばすような音を!そうだ、ガス攻撃に違いない!」
「全員、早くマスクの準備だ」
「隊長!ガス検知器は既に確認済みです。ガスは漏れていません」

「オキーフがすぐに警報を鳴らしたので、奴ら何もせずに逃げたのだろう。
   念のため、全員マスク装着!」
シルバーマン隊長は、伍長のホルストコフスキーに指示を出した。

「しかし、今月だけでもガス攻撃未遂は3回。基地への起爆装置の設置工作は2回です。
   我々は押されています」
「しかし、何故、どれもレーダーに反応しない」
「そこです。これだけ工作が続いているのに、敵は一人も捕まらない。また何の証拠も残さない。
   あげくの果てにレーダーまで機能しない。これは我々の中にスパイがいるのでは?」

シルバーマンとホルストコフスキーが、敵が現れたという道路脇に調査に行くと、そこには
防衛隊のフィッシャーが、先に調べに来ていた。フィッシャーは、沼地の泥を掘っていた。

「あ!見ましたか?フィッシャーの奴、今、何か拾いましたよ」
「いいじゃないか。何か大事な証拠を発見したのかも知れんよ」

「いや、あいつに聞いて見ましょう。きっととぼけるに違いない」
「フィッシャー、ご苦労様。何か見つかったか?」
「いえ何も」

「何も?どんな小さな証拠でも良い。出してみろ」
「何も持っていませんよ」

「おい、こいつを調べてみろ!」
フィッシャーは裸にされて、身ぐるみ調べられた。しかし怪しいものは何も出てこなかった。
ホルストコフスキーはこっそりと、部下に耳打ちした。あの泥を後で漁って見ろ!と。


「誰だ?スパイは誰なんだ」
「私には判ります。地球(テラ)のスパイが」

「テラ?そうか!テラか。どこかのエイリアンだと思っていたが、テラか!まさか、盲点だった」

翌週の地下での対策会議では、シルバーマンは完全防護服を着て参加した。
細菌汚染工作の可能性があると言うのが、その理由だった。

「先週の破壊工作未遂事件です。新設のA型橋梁へのサボタージュ工作。
   水源地への金属塩汚染計画。そして、この地下室も、絶対安全とは言い切れません」
「しかし破壊工作者は姿を見せん。一体、何者なんだ!」

「テラ人さ」
ホルストコフスキーが言った。

「テラ?何で奴らが、こんな遠くまで来るんだ?」
「我々だって、元々はテラ人だ。奴らだって来れるさ」

「テラ人は、もう退化している。他には無いのか」
「我々と同じような、墜落船からの生存者グループが、他にもあるのかも知れません」

「墜落した宇宙船が、奴らの基地かも知れん!あれを引き上げろ!」

「待て。落ち着け!あれはとっくに腐食している。引き上げても、意味はない。
   それとも、お前、どうしても引き上げなくちゃならん理由でもあるのか?」
「貴様こそ、何故、引き上げに反対する。あの中に隠しておかなくちゃならん秘密でもあるのか!」


彼らが乗って、この惑星までやって来た、そして墜落した宇宙船は、沼に漬かっている。
もう半分腐食していた。

彼らは、それを引き上げた。

「中には誰もいない」
「乗船データを調べろ。何か敵につながる痕跡が、あるかも知れん」

「どうした?」
「おかしいんだ。この宇宙船の制御装置はすべて自動式だ。手動ではできない」

「何を言ってるんだ。我々が操縦して来たんだろう?」
「いや、完全自動だ。どこにも、操作できるものはない。電源を入れるだけだ」

「じゃあ、我々は?誰なんだ?」
「つまり...これは、囚人護送船だ」

「待て、待て。俺達は混乱している。思い出そう。俺達はガニメデを出て、ここまで来たんだ。そうだろ?」
「この映像記憶装置は動きそうだ。再生して見よう」

記憶装置に写っていたのは、医者と思しき男。航行に於ける注意点を語っていた。
そして、彼らは知った。この船は、病院船だったのだ。

フォーマルハウト第4惑星の中央病院まで護送の途中で、隕石団と接触して、
病院船は、この星に落ちたのだ。

再生装置は続けていた。

映像の中で、テラ人の医師は穏やかな語り口で、患者に対する心がけを語っていた。

「...彼らは、重度のコンプレックスを抱えている。しかし、その領域外では、極めて
   理性的で、頭脳明晰でするある。しかし、特定領域の価値判断では、特殊な固定観念に
   こだわり、正常な社会生活を阻害する。これがパラノイヤ患者の特質である...」

「...偶然の出来事に過剰に反応し..自己保全への無限の努力..そして最終段階になると.」


司令室では9人のメンバーがこの映像を元に議論していた。

「我々は患者なんだ。全ては妄想なんだ」
「いや、このテープ自体が、敵の工作かも知れない。我々全員が異常などと言う事はありえない」

「どちらにしろ、我々全員が重度の精神病患者だとすると、
   こうやって話し合っている事自体が無意味だ」

「しかたないテストをしよう。充分に客観的な試験だ」
「どうするんだ」

司令官のラノアールが提案した。

「疑えない事実がある。例えば、今朝持ち込まれた、ガス襲撃地点の空気の実在だ。
   しかし、これが毒かどうかは、まだ疑いの余地がある。こう言った物に一つ一つ我々が
   判断していくのだ。全員が一致して、危険と判断すれば。その危険性は明らかだ。
   しかし、その危険性が、ランダムに発生的しているのであれば疑わしい。どうだ?」

「よく、わからんがやって見よう」

9人の前に、二つずつの袋が渡された。
「この中の片方には、現場で採集された空気、もう片方には、この司令室の中の
   空気が入っている。どちらが危険な空気であるかを判断して欲しい。散布されたのは
   異臭を放つ毒ガスだ。どちらかを紙に書いて渡してくれ。後で集計を発表する。
   ちなみに私自身もどちらが毒ガスかは、知らない」

結果はAの袋と書いた者が4名、Bの袋と書いた者が5名。

「これは、どう言う事だ?信じられん。Aの匂いに気が付かないなんて?」
「なんて、お前は馬鹿なんだ。Bの空気には色が付いてるだろう!Bに決まってる」

緊急連絡が入って来た。

「ただいま、敵の襲撃がありましたが、撃退しました。敵を1名、狙撃しました」
「よくやった。早速、敵の死体を持って来い!」

「ダメです。瀕死の敵は、沼へと逃げ込みました。あの沼地に入った者は、
   飲み込まれてしまうのです。敵の何時もの行動です」


司令官のラノアールは副官のテイトが話をしていた。
「今回の実験で、私は自信がなくなった。もしかしたら、我々はテープの通り、
   意味のない恐怖に縛られているのかも知れない」
「しかし、だとすると我々は狂信者集団です。この情報を全員に伝える訳にはいきません」

「司令官!」
その時、シルバーマンがラノアールを呼び止めた。振り向くラノアールに破壊銃が浴びせられ、
彼の半身は吹っ飛んだ。テイトは腕を負傷したが、逃げ延びた。あの沼へと。
「どうしたんだ?何故、殺したんだ??」
「スパイさ。まさか司令官がスパイだとは、盲点をやられた!」

「俺もあの試験は変だと思った。でも危うく信じる所だった」
「あんな小細工に騙されはしない。テラの奴らめ!攻撃の準備だ。残った水爆を無傷の着陸船に
   詰め込んで、テラへ贈ってやれ!」

瀕死の体を引きずり、テイトは沼で、疲れきった体を休めていた。ここは底なし沼と恐れられているので、誰も捜索には
来なかった。しかし出血は止まらない。じっとしていると、毒カタツムリが体を這い始めた。
こいつらは、次の餌を待っているのか?

その時、テイトは地響きを聞いた。何か巨大な物の打ち上げ音を



..............


この妄想殺人ミステリーは、長編、「アルファ系衛星の氏族たち」に近い気がします
しかし、UFOが見えたり、放射能を直に感じる事ができたり、人は色々です。

記:2011.03.22


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三分 小説 備忘録

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