小田急電鉄小田原線(代々木上原駅〜梅ヶ丘駅間)都市計画案への意見書 2002年2月26日


2002年2月26日

東京都知事 石原慎太郎 様

世田谷区代田4−24−15−102
木下 泰之

小田急電鉄小田原線(代々木上原駅〜梅ヶ丘駅間)の連続立体交差、および複々線化事業に関する都市計画案への意見書




1、

 小田急急線複々線化・連続立体交差化事業では、昨年(2001年)10月3日に東京地方裁判所が判決で成城駅・梅ヶ丘駅間の高架事業の建設省認可を取消している。今回の一連の都市計画案はこの事業認可が取消された高架事業に直接接続する事業であり、そのような違法事業を前提とした都市計画案は、縦覧すること自体がナンセンスであり、違法・不当である。従って、関連するすべての都市計画案は撤回し、成城から新宿までの一貫した都市計画案に改めるべく見直し作業に着手するべきであり、そのための住民対話を都知事は直ちに開始すべきである。

2、

 示された代々木上原駅〜梅ヶ丘駅までの事業の都市計画案はもともとは、東北沢駅〜喜多見駅付近間の複々線化・連続立体交差化事業として調査・企画されたものである。1987年度1988年度の2ヵ年にわたって国庫補助を受けた「連続立体交差化事業調査」はこの区間を一体として事業をおこなうことを前提に調査がなされたにもかかわらず、報告書をまとめる段階になって事業を梅ヶ丘駅付近で分断し、今回の事業区間を関係各方面との調整を必要とする「検討区間」として分離した。
 今回の都市計画案の説明会で明らかになったことは、4線1層高架方式に対する2線2層地下方式の経済的優位性であった。説明会では双方1400億円で同等としているが、ここでの2線2層の地下方式は、地下から地上への移行区間を両端にもち、2.2キロという短い区間で開削方式を多用した極めて金のかかる方式によっている。しかも、開削工法なので立ち退きも生ぜざるを得ない。こういった2線2層地下方式との比較においてさえ、同等なのであるから、成城駅・東北沢駅間の4線1層高架と2線2層シールド地下方式を比較した場合には、環境のみならず、経済的にいっても後者の方が圧倒的に優位であることは一目瞭然となった。
 東京地裁は裁判での事業認可違法の事由の一つに、高架を優位とするために意図的に行った事業費比較の違法性をあげているが、今回の都市計画案の説明会では東京都はまさに自らそのことを証明した。

3、

 当局は東北沢駅〜喜多見駅付近間の事業を梅ヶ丘で分断し、以東を「検討区間」としたが、代々木上原以東新宿までの対応も視野に入れて検討してきた。実際に、世田谷区は平成4年度平成5年度平成6年度の3年度間、新宿までの複々線化・連続立体交差化を視野に入れた調査検討を行った。この時期には既に関連行政機関を含めた「連続立体交差協議会」が発足しており、この調査が世田谷区だけの意向では実施できないのは当然のことである。  平成11年5月に発刊された「首都圏計画地図」(かんき出版)は東京都技官の佐藤一夫氏と東京都理事青山佾氏(現副知事)が編者となっている本だが、この本で複々線化・連続立体化事業の計画路線として「梅ヶ丘〜新宿間」を「地下の方向」と明記しているのである。ところで、代々木上原駅〜新宿間を除いて都市計画決定をすると、同区間単独では建運協定にいうところの連続立体事業の用件を満たさなくなってしまう。説明会でこのことを指摘されると、担当の遠藤課長は、将来の事業手法を検討していることを示唆する回答をしている。
 一連の動きを総合すると、新宿までの事業方針は既に決めているにもかかわらず、これを隠蔽してきたと結論付けざるを得ない。また、新宿までの複々線化の方針のない小田急線の複々線計画はナンセンスといわざるを得ない。代々木上原から新宿までの計画を考えれば、この区間は地下方式を採用せざるを得ないことは明らかであるから、高架で整備してしまった代々木上原駅のやり直しも含めて計画を検討せざるを得ないことはいうまでもない。
 ところがこの一番大事な検討過程を当局は隠し、前回事業区間の細切れ計画に続き、今回もまた梅ヶ丘・代々木上原間に限った細切れの都市計画案を市民に提示したのである。

4、

 細切れ都市計画の事業者側にとっての「効用」は、環境アセスを行った場合、その環境影響を低く抑えられるところにある。鉄道事業についていえば、喜多見駅付近・東北沢駅付近間の計画段階で言われていた鉄道の増発計画は現行一日770本が東北沢までの完成で1000本であった。ところが、梅ヶ丘で計画を分断した際に、出てきた数字は梅ヶ丘までの完成で800本であり、30本しか増えないことになる。この30本しか増えないことを前提に現行事業区間(成城学園駅・梅ヶ丘駅間)の環境アセスは実施された。この環境アセスはまさに「細切れアセス」として各界専門家からの指弾を東京都が受けたことは周知のことであるし、昨年の事業認可取消し判決もこの事情を考慮していることはいうまでもないことだ。
 今回の事業区間までの完成では何故か当初計画の1000本より100本落とし、900本とされアセス案が提示されているが、もとより今回の区間は地下が大半であるのだから、地下と地上の移行区間となる一部を除いては今回の事業区間では騒音の影響を受けるところは少ない。むしろ、今回の計画区間が完成すれば梅ヶ丘以西の高架周辺で発生する騒音被害が生ずるのだから、この地域の騒音発生は当然今回の環境アセスの項目に加えてしかるべきである。
 現事業区間が今回の計画案完成時と切り離された環境アセスしか実施していないのだから、具体的に騒音を増加させる事業を今回行う以上、評価項目に加えるべきだ。ところが、そうしていない。電波障害などは遠隔地にまで適用するのに、直接影響を与える騒音被害を考慮の外におくことは環境アセスとさえいえない。補助54号線、補助26号線についてもこの道路が将来開通した際の環境アセスは一切行っていない。
 連続立体交差化事業は道路特定財源に基づく都市事業であり、道路づくり、「街づくり」を主体とした総合的事業であるにもかかわらず、この事業によって変貌する地域の大気汚染や道路騒音の都条例に基づく環境予測をしようとはしておらず、不当である。
 連立事業調査では一定の環境予測を行っているのだから、少なくとも都市計画案縦覧の前にこれらの環境予測を含め「連立事業調査報告書」は公開すべきであるが、1987年度1988年度の「連立事業調査報告書」の街づくり資料は公開されておらず、2000年度の「連立事業調査報告書」も公開されていない。これらの基礎情報を欠いた都市計画案の提示は官僚専制体制そのものである。

5、

 昨年10月3日の東京地裁判決は成城駅・梅ヶ丘駅間の複々線化連続立体交差事業の国の事業認可を取消した。
 行政訴訟手続法31条の1は公共の利益に重大な支障をきたすものについては、例え、違法の宣言をしたとしても、判決においては訴えを却下できるとしており、国政選挙の定数是正訴訟等では実際には違法を宣言しても、選挙そのものの取消しは却下している。このような判決を事情判決と呼ぶが、小田急線の建設省事業認可については実際に取消しの判決が下ったのであり、事情判決ではない。
 同判決が事情判決とならなかった背景には、原告側が提示した「緑のコリドープラン」としての代替案がある。新宿から成城までの2線2層シールド地下方式での事業を一気に行い、既に構築した高架構造物を緑道として再利用しようという三方一両損案の代替案である。
 2000年10月に東京地裁民事3部はこの代替案を評価し、和解勧告を行ったにもかかわらず、被告の国や後に参加人として訴訟に加わった東京都はまったく聞く耳を持たなかった。裁判所が支持したこの代替案による和解交渉が全くなされないまま、一方的に被告がこれをけったことにより、裁判所は事業認可の取り消しを命じたのであった。このことは、裁判所が被告国が見過ごした騒音の放置やまともな代替案検討を無視した同事業計画や都市計画の違法性が極めて深刻であったことを認定したにとどまらず、この事業が代替案によって違法性を払拭でき、事業認可を取消したとしても公益に支障をきたすものではないことを裁判所が認めた結果である。

6、

 住民側代替案の主張は、実現不可能では決してない。国の認可が違法とされた以上、これまでの連続立体交差事業の範疇を超えて新たな解決方法としての代替案を模索することは現実的であるし、抜本的な公共事業の方向転換は判決によって可能となったとさえいえる。
 石原東京都知事は判決後の都庁での記者会見で、「文明論としてはわかるけれども、ここまでできてしまったからなあ」との感想を漏らしているが、判決によってまさに公共事業に対して文明論的な観点から大転換を実行する契機が生まれたと捉えるべきではないだろうか。複々線化・連続立体化事業の実態をつぶさにみていくと、この事業は一私鉄の事業とは言えないほどの、補助金や財政投融資資金がつぎ込まれており、また利用客の運賃に事業費が上乗せされてもきた。同事業を地下鉄化することにより、生み出される公共空間を考慮に入れれば、これを都市再生の契機に利用しない手はない。
 デフレ対策として都市再開発事業が未だに取りざたされているが、かつてのようにビルを作り、商業床を増やしてみたところで、需要も少なく買い手もつかない状態であるから、かえってデフレを促進させかねない。むしろ、地球環境や地域環境に絶対的に必要な緑への投資は環境技術の革新や文化・ライフスタイルそのものの革新につながり、新たな有効需要を喚起する契機ともなりうるのである。だからこそ、代替案はエコロジカルニューディールの立場から提起されているのである。
 都市に生態コリドー(回廊)をつくろうという訴えは、都市の孤立した緑をラインでつなぐことにより、生態系を回復しようという呼びかけであり、小田急線の一事業にとどまるものではない。今後予定される連続立体事業には応用できる問題提起であり、道路づくりについて言えば並木道の復権でもある。もし、小田急線で明治神宮から成城までのコリドーが完成すれば、東は表参道から青山を経て皇居へも通ずる緑のラインとつなぐことができるし、成城からは国分寺崖線をへて多摩川までの緑のラインがつながる。違法とされた公共事業の転換を目に見える形で緑への政策へと転換することができれば時代の空気も変わるというものではないだろうか。文明論的な取り組みとして石原知事は小田急事業の転換をはかるべきなのである。

7、

 最後に、下北沢のまちのコンセプトについて触れておく。下北沢は車に依存せずに生きてきたまちである。小田急線と井の頭線が交差し、新宿にも渋谷にも近いが住宅地に囲まれた繁華街であり、広い道路がなかったことと交通の便がよいことが幸いして歩いて楽しめる街となっている。
 この街のよさを生かすためには補助54号線はこの街を通過させてはならない。北側では井の頭通りが拡幅中であり、西には環状7号線が走っており、南には淡島通り、先には246がある。ここに補助54号線ができれば、下北沢の知名度からいって車で下北沢を目指す人々は確実に増える。補助線といえば何か付け足しの生活道路のように聞こえるが、世田谷通りも補助線であるということを忘れてはならないだろう。
 下北沢は「環境共生の繁華街」というコンセプトを持ち、その街の文化を周辺の住宅地域まで含めて共有できる環境を作るべきであると私は考える。緑のコリドーが明治神宮までつながり、更には羽根木公園を接し成城までつながれば、緑道を中継する繁華街として環境共生文化を育む一つの中心地となるだろう。

以上


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木下泰之 TEL 5355−1283 Email kinoshita@a.email.ne.jp