マドラスへの帰りは2度目の列車の旅になった。 前回は寝台列車であったが、今度は全席指定のエクスプレス列車で、2等が付いていない。 列車に乗ると、先ず飲料水のボトルと新聞が配られ、次に弁当タイプの軽食が一人一人に配られた。 「値段の割にいやにサービススがいい列車だな」、と感心していると、しばらくしてスープに夕食まで出てきた。 そして最後はアイスクリームのデザートと、まるで飛行機のビジネス・クラス並みのサービスである。 満席の1列車分を、たった一人のボーイがすべてサービスするという、およそ分業の国インドらしからぬ仕事ぶりに感激し、つい私だけチップを渡してしまった。
マドラスは、ベンガル湾に面した南インドのゲートウェイで、ボンベイ、カルカッタ、デリーと共に4大都会の一つで、人口540万人を数える南インド一番の都会だ。 古くから栄えた港街で、1639年には東インド会社がここにイギリスによって設立された。 マドラスはインドに着いた時、空港だけしか立ち寄っていないが、何故かインド国内の旅を終えて帰ってきたような気がした。 駅に着くと、リクシャーの運転手がさっと近寄ってきて、「どちらまで?」と言うので、バンガロールから電話で予約しておいたホテルの名前を言って「いくら?」と聞くと、「40ルピー」と言うので、「OK」と承諾した。
その運転手はリクシャーの駐車場までさっさと荷物を持って先を行く。 かなり歩いて、暗がりの駐車場に付いた時、「そのホテルは遠いから、100ルピーをくれ」と言う。 「約束が違うよ」と言ったが、強硬に折れようとしない。 駅まで引き返すのは面倒なので、渋々承諾した。
マドラスの市内は、ボンベイほどの喧騒ではないが、やはりうるさい。 街の東側の海のそばに、東インド会社の商館を守る為にイギリスが築いたセントジョージ砦がある。 当時の南インドの植民地支配の橋頭堡とした要砦で、かなり堅牢な造りである。 ここはバンガロールと違って、いわゆるインドのごみごみした人の多いごったがえした街で、何とかはやく田舎に逃避したくなる思いが募る。
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