オリーブの木 NO.9から
― 聖地の子供ニュース ―
|
『対話こそ和平への道』 イブラヒム・ファルタス師講演会の報告 |
「聖地のこどもを支える会」は、ベツレヘム聖誕教会のフランシスコ会司祭・イブラヒム・ファルタス神父の講演会を
10月11日 高崎教会を皮切りに、東京、横浜、広島、大阪、神戸の7箇所の会場で開催しました。
スタッフ、山崎久美子さんが報告します。
ベツレヘム聖誕教会のイブラヒム・ファルタス師(フランシスコ会)が去る10月8 日「聖地のこどもを支える会」の招聘で来日した。 イブラヒム師の講演会は、カトリック新聞社、キリスト新聞社、サンパウロ各社の後援を得て、10月11日、群馬県高崎教会を皮切りに、7箇所の会場で行われた。12日は東京・田園調布教会、13日はイグナチオ教会ヨゼフホールだったが、この日はあいにくの荒天の中を約140名の方々が足を運び、熱心に耳を傾けてくださった。14日には、横浜雙葉学院の父兄会で講演、その後、16日に広島カトリック会館、18日は大阪北野教会、翌19日、神戸の六甲教会において約150名余の人々の前での講演を最後に、翌朝20日には帰国というハードなスケジュールを精力的にこなした。 神への深い信頼と祈りに裏付けされた、イブラヒム師の率直な分かりやすい話は、各地で多くの方々の心に感動と共感を呼び起こしたのは確かである。 泥沼化するイスラエル・パレスチナ紛争の中で、2002年春に起こったベツレヘム聖誕教会包囲事件は記憶に残る出来事である。約240人のパレスチナ人が教会に逃げ込み、イスラエル軍による39日間に及ぶ包囲が続いたのだ。その時自分たちの命を顧みず教会内に残ったのが、フランシスコ会の共同体30人余りと4人のシスター、また何人かのギリシャ正教とアルメニア教会の修道士たちである。 世界のメディアは「彼らは人質となった」と報じたが、イブラヒム師はきっぱりとそれを否定する。「私たちは誰の人質になったこともない。イスラエル人であれ、パレスチナ人であれ、そこにいる『人の命』を救うために、自分たちの意志で中に残ったのだ」と。「もし自分たちが『人質』であったとすれば、それは『平和のための人質』であった」と彼は言う。仲介役・連絡役として、事態の平和的解決のために、イスラエル・パレスチナ双方に「対話と交渉」を促したのも彼であった。 またイブラヒム師は、中にいた当事者しか知らない、包囲中のいろいろなエピソードも話した。最初に電気と電話が切断されて、外の世界と全く切り離されてしまったこと、最後の手段であった携帯電話に充電するのも命がけであったこと、一歩でも外へ出ればイスラエル軍の銃撃により殺され、負傷する危険があったこと、中では、限られた食料を分け合って食べ、なんとか飢えをしのいだこと(彼自身15kgも痩せたそうだ!)、また一つの蛇口からはわずかながらいつも水が出て、人々は「マリアさまの泉」とよんで感謝していたが、包囲が終わった時は、もう一滴の水も出てこなかったこと、同じようにほぼ空っぽ状態のガスタンクから39日間もガスが使えたこと、などなど。 とりわけ聴衆を感動させたのは、ローマ教皇からの電話のエピソードである。ある日、立てこもっていたパレスチナ人たちは、「どうせ死ぬのなら、外に出て、銃撃戦で1人でも2人でもイスラエル兵を殺してから、いさぎよく死のう!」と、それぞれ銃を手に、イブラヒム神父に教会の鍵を渡すように迫った。神父の携帯電話に突然教皇から電話が入ったのは、そんな絶望の極限状態の中だった。「頑張って、恐れないで、その聖なる場所を守ってください。主はいつもあなた方とともにおられます。私も皆さんのためにいつも祈っています」と。この電話のおかげで、殺気立った人々の心は落ち着き、希望を取り戻すことができたのだ。こうして200人余りのパレスチナ人と何人かのイスラエル兵士の命を救うことができたのだと師は言う。 cf.『聖誕教会包囲の真相』(サンパウロ・2003年10月1日刊行) イブラヒム師は、現在約2000人の生徒が通うテラ・サンクタ学院の校長として、こどもたちの平和教育に重点を置き、和平の実現を目指している。イスラエルの学校と姉妹関係を結んで、イタリアへ両校のこどもたちを連れて行き、1週間から20日間にわたって対話させる試みをすでに7回実施し、和解と共生へのプログラムを進めているということだ。 日本滞在中イブラヒム師が最も強い衝撃を受けたのは、広島平和公園と原爆資料館だった。「広島はあの悲惨な出来事から立ち上がり、今や平和都市として世界の中心になった」との感想をもらし、「しかし《平和の君》であるキリストが生まれた聖地では、現在に至るまで平和を味わったことがない、今もベツレヘムでは暴力と憎悪が支配している」という。 イブラヒム師はさらに「一つの暴力が別の暴力を呼び、暴力の連鎖は終わることがない」、「自爆攻撃は罪のない人々を殺す行為である」と語り、この現状を抜け出し和平を求める道は「対話しかない」と強調した。 イブラヒム師は、各地で日本の多くの方々と出会い、とても友好的で温かい歓迎を受けたことに大変感動し、感謝をしている。ベツレヘムで緊張を余儀なくされている日常からしばらくの間でも解放されたからだろうか、イブラヒム師のその人柄が滲み出る優しい眼差しとすばらしい笑顔が印象的だった。 私たちも、「平和教育」こそ和平への希望の道と信じ、これからもこどもたちのために微力を尽くしていきたいと思う。 山崎 久美子(聖地のこどもを支える会) .
|
|||||