オリーブの木 

     聖地の子供ニュース NO.6から

紛争下のこどもたちを訪ねて

「聖地のこどもを支える会」のスタッフ7名は、2002年11月末から12月にかけて
イスラエルによる占領の中、外出禁止令にあえぐ聖地のこどもたちを訪ねた。
スタッフの一人山崎久美子さんが報告する。

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私たちは日頃の平和な暮らしに慣れて、遠い国で起こっている問題を見過ごしたり傍観しがちである。2002年11月25日から12月4日まで10日間の日程で聖地を訪れ、その思いをより強くした。 「聖地のこどもを支える会」のスタッフとして聖地におけるパレスチナ人の現状をつぶさに見、その子供たちに会うために、政情不安を承知の上での旅であった。

長引くイスラエルの占領政策により、自由を剥奪されたパレスチナ人の経済的、精神的窮状は予想以上であった。民族、政治及び宗教の問題が複雑に絡み合って、容易に理解し難い事柄が多いのだが、それにしても彼らは集団的懲罰状態にあり、人間としての尊厳を奪われている。その中でなす術を持たない子供たちが、将来への希望を見出せず、苦しみに耐えている現実に、胸が締め付けられる思いがした。

私たち7名はサンビ教皇大使に会い、この国の実情をお聞きした。その後、冷たい時雨の中を歩いてエルサレムの旧市街にあるラサール学院を訪問し、4人の少年とその父兄をまじえて話をする機会に恵まれた。16才の少年ジョージ君は区域外から通っているために、毎日イスラエルのチェックポイントを通り、許可証を所持していないと直ちに生命の危険にさらされると話す。いつ終わるか分からない紛争の中で、彼等は「明日への希望はない」と強く訴える。教職員もその日の状況次第で学校へ来ることが出来ず、休講することも多いという。それでも彼らは真剣に勉強している。つらくても、生命の危険を感じても何とかして学校へ行って学ぼうとしているのである。彼らの屈辱感や精神的ストレスはピークに達しており、ともすれば進学の希望も平和への希望も見失いそうになっている。

失業率は場所によっては80%を超え、新鮮な食料を始めとする物資の輸送も滞り、身体的・精神的健康も非常に憂慮される状態である。しかし一方で、イスラエル国籍のアラブ人街では物資も豊富に出廻り、賑わっているのを目の当たりにしてとても不思議な思いがした。教皇大使の計らいで、イスラエル軍の包囲が厳しいベツレヘムに入る特別許可が出たのは幸運であったが、過激派による自爆攻撃のために外出禁止令が出されていて、学校は休校で子供たちに会うことは出来なかった。テラサンタ・カレッジを見学し、かつて38日間のすさまじい抗争のあった聖誕教会に入ることが出来たが、町はゴーストタウンと化し、子供たちの姿も無かった。

 この旅で様々な子供たちの姿に接したが、アラブ人特有の大きな瞳と、人なつっこい眼差しに秘められた深い憂いが印象的であった。わけても、タイベ村の学校で出会った女の子が、「世界の人々はテレビの向こう側で私たちのことを見ているだけで、何もしてくれない」と嘆くように言った言葉がいつまでも耳に残っている。教室の外には「平和を下さい」という文字が貼られていた。

顔と顔を合わせることによって、彼らと同じように叫びたい気持ちを私たちも共有することが出来たのである。今後苦しみの中にいる人々をどう支えていけばよいのであろうか、大きな重い課題を持ち帰ってきたように思う。失望や絶望からは何も生まれない。僅かでも希望を見出し、力づけることを見つけていきたいとの願いを込めて旅を締めくくった。

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