オリーブの木 

  聖地の子供ニュース NO.4から

ハムディ君の《ぼうけん》

ぼく、お菓子を買いに行っただけなのに、
戦車に乗せられちゃった!こわかったよ〜!」

  ハムディ・アルアトラッシュは9歳の男の子、ベツレヘム・デヘイシャ難民キャンプのそばで両親と9人の兄弟姉妹と暮らしている。先日の日曜日(6月30日)、午後7時30分頃、甘いものが大好きな彼は、誘惑に駆られて、外出禁止令にもかかわらず、そっと近所の菓子屋へ駄菓子を買いに行った。

  ところが、通りを横切ったとたん、運悪く、イスラエル兵に見つかってしまった。5,6人の兵隊が装甲車で追いかけてきて、近所の家に逃げ込んだハムディを引きずり出し、目隠しをして小さい手にプラスティックの手錠をかけたのである。幼いハムディは泣き叫んで言った。「放して〜! アラーの神様〜、ぼくネ、ぼくと弟のためにネ、ただお菓子を買いに行っただけなんだヨ〜!」 後に彼はこう訴える。「ぼくネ、とっつかまえられて、戦車の中に押し込められた。そこに兵隊が8人ぐらいいてネ、かわるがわるぼくをぶったんだ。」

  イスラエル兵はハムディにベツレヘム入り口のタントゥール・検問所まで戦車で「スペシャルドライブ」をさせてくれた! そこで彼らは少年を戦車から降ろし、目隠しを取って、尋問をはじめた。「オイ、お前もタイヤを焼いたことがあるだろ? 石を投げたことがあるだろ? エー?」

とうとうイスラエル兵は彼を釈放し、独りで家まで歩いて帰れと命じた。もう外は真っ暗だった。「ぼく、死にそうに怖かった。通りには、イスラエル兵と軍の車しか見えなかったんだもん。家に帰るまでに、きっと銃で撃たれて死んでしまうと思?た。」 彼の家までは  検問所から約2km、外出禁止令のためすべての家はしっかりと閉じられていて、 明かりはひとつも漏れては来ない。彼は続ける。「ぼくネ、時々立ち止まって、 自分の体に触って、まだ生きているかどうか確かめたんだ。あちこち見回してみたけど、犬や猫が見えても怖かった。真っ暗だったのも怖かった!。」

しゃくり上げながらこう語る彼の幼い頬には、大粒の涙が止めどなく流れる。そして小さな手首に残る手錠の擦り傷を見つめ続けていた。

帰る途中、ハムディは4回もイスラエル兵に捕まり、そのたびに、尋問され、手を挙げて壁に向かって立たされたという。彼は、決して逃げだしたり、抵抗したりしなかった。そうするにはまだ幼すぎたのである。

彼がやっとわが家にたどり着いた時は、もう真夜中を過ぎていた。「わたしたちはほんとに心配しながら待っていたんですよ」と母親は言う。「あの子が連行されていった時、叫んでいたのを聞きました。でも手も足も出やしない。悔しくて、かわいそうで泣きました。わたしたちはただの弱い人間ですよ、どうしたらいいんですか? 生きて帰るかどうか心配で、ただベランダでおろおろと泣くだけでしたよ。上のこどもたちがテレビで何かハムディについて言ってないか一生懸命見たんですけど、結局何も分からなかったんです。」

兵士とオリーブ(ベイトリマ)

「ハムディはあれ以来、攻撃的になったかと思うと、口もきかずにふさぎ込んでしまうんですよ。夜は悪夢にうなされてよく眠れないらしく、夜中に飛び起きたかと思うと突然叫びだして、何か訳の分からないことを口走るんです。あの子は今全くの人間不信、暗闇や車の音にもおびえててね。だれか息子を助けてくださいな!」

ハムディは今夏休みだ。しかし新学年が9月に始まる時、今までのように独りで学校に行くことが出来るだろうか。そしてクラスメートや先生たちに自分の恐怖の「戦車ドライブ」について話すことが出来るだろうか?

ハムディの話は何もユニークなものではない。こんな話は他のパレスチナ人のこどもたちにいくらでもあることだ。ハムディとその家族はまだラッキーだ。彼は家に帰ることが出来たし、恐怖の体験を話すことが出来たから。しかし、その話を決して人にすることができず、家に帰ることも出来なかったこどもたちが何百人もいる。

しかしハムディの話は、今のパレスチナのこどもたちの置かれている現状のシンボルとして語られなければならない。ハムディはきっと心の傷をずっと持ち続けるだろう。いつか彼がこの苦しみから解放されて、他の人に対して、とりわけイスラエルの人々に対して、愛と赦しの心を持てる日が来るだろうか。この問いの答えは、すぐには見出せないかもしれない。しかし、このようなこどもたちを救うために、さらに、もうこどもたちがこんな目にあわないで済むように、わたしたちひとりひとりに問われていることは何だろうか? 何が出来るのだろうか?

      サミ・アドワン(ベツレヘムの先生)

cf. Olive Branch from Jerusalem No. 162(キリスト教の観点から「非暴力」を主張するエルサレムのホームページ)

 


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