オリーブの木

  聖地の子供ニュース NO.3 から

イブラヒム神父の思いがけない39日間―

 イブラヒム・ファルタス神父は、アレクサンドリア生まれのフランシスコ会修道者。若干38歳で、キリスト教のもっとも重要な聖地のひとつ、ベツレヘムの聖誕教会サンタ・カタリナ修道院の院長だ。彼は4月2日から39日間、突然神から思いがけない使命を与えられた。イスラエル軍に追われて、聖誕教会に逃げ込んできた200人以上のパレスチナ人の群れを「牧し」、世話をすることになったのである。彼らのほとんどはイスラム教徒、多くの者は銃や手榴弾で武装している。なかには10代の子供も10人ちかくいた。教会内には、飢えと渇き、緊張と怒り、あせりがあり、外には教会を包囲しているイスラエル軍の銃声が絶えず響いていた。

 イブラヒム神父は、日曜のミサを別の場所でささげるために一度教会の境内から外に出る機会があった。彼はそのまま外にとどまることも出来た。しかしミサを終えた彼は、また中へ戻っていった。中に残っている人々を案じていたし、60人あまりの修道士や司祭が人質に取られているという報道を否定して、自らの自由意志でパレスチナ人とともにとどまっていることを証明するためであった。

 彼は毎日何時間も立てこもっているパレスチナ人たちと話し合った。希望と絶望と焦りの連続であった。イスラエル側からの危険もあった。銃弾が彼の耳をかすめたこともあるという。

イブラヒム神父(中央)

 イスラエル軍はしばしば、電気を切り、食物や水が運び込まれるのを阻止した。修道士たちも立てこもっている人々も、一日一食しか食べられず、トイレもなかった!イブラヒム神父は言う。「わたしのもうひとつの仕事は、外に出てイスラエル軍と話し合い、何とか食料と水と電気を確保することでした。それと、負傷した人々、死んだ人々を外へ運び出す手伝いをすることでした。」さらに「こんな使命をわたしは想像したこともなかったし、こんな危機的状況に陥ったこともありませんでしたよ。しかしわたしは、自分の責任を果たそうと祈りのうちに決心しました。周りのすべての人々と話し合い、協力しました、平和のうちに事態を解決するために。」と神父は言いました。

 武装解除されたパレスチナ人たちがついに教会を出ていくとき、修道士や神父たちにこう言ったそうだ。「ありがとう、神父さん。こんなことになって本当に申し訳ありませんでした。」と。

 長かった39日間を振り返ってイブラヒム神父はこういった。「この辛かった日々にも神様のおかげでよいことがありました。それは、今までここでは、カトリックもギリシャ正教もアルメニア正教も、たがいにバラバラだったけれど、みんなで励ましあい一致してこの試練を乗り切ったことです。今では本当の意味でみな兄弟となりましたよ。」

今、イブラヒム神父は、この地にまことの平和が必ず訪れるだろうと大きな希望を持っている。


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