エルサレムからのHOT NEWS
−イスラエル・パレスチナの紛争の解決を願って−

この記事はイスラエルより発信されている「NONVIOLENCE (非暴力)」のホームページより、製作者 ラエド・アブサリア神父様の許可を得て「聖地のこどもを支える会」で翻訳したものです。


オリーブ・ブランチ NO.198

イースターメッセージ

エルサレムルーテル教会司教Munib A. Younan博士
2003年4月20日

誰が石を脇へ転がしたのでしょう  (マルコ16:1-8)

 今年キリスト教会が復活祭を祝うにあたり、私は、「信者にどのようなメッセージを送りますか。どのような可能性ある希望を彼らに与えることが出来ますか?」と、尋ねられました。この復活の日私は、三人の女性――マグダレナ・マリア、ヤコブの母マリアとサロメ――と共に歩いているように感じます。十字架につけられたイエスの墓まで、そして遺体を奪う人から守るために洞穴の前に置かれている大きな石の所まで、彼らと共に歩いているように感じます。亡くなられたイエスに伝統に従って油を注ごうと、三人の女性と共に行くように感じます。日曜日の朝早く、サロメと二人のマリアと共にその墓穴に近づくと、私は彼らと共に尋ねます。「誰が墓の入り口から石を脇へ転がしたのでしょう?」

 大きな石―死という結末と、イエスに従った人々が直面した重い問いかけを代表する石―は、三人の女性が動かすには重過ぎました。何が起こるのでしょう? 兵士たちは彼らも捕らえるのでしょうか。彼らも十字架につけられ、果てるのでしょうか? どこに行くべきでしょう。何をすべきでしょう。全ての問いに、希望のかけらもありませんでした。

 私達は今、希望の無い状態にあります。私たちには転がす石が一つより、もっと多くあります。ですから私達はこう尋ねます。「誰がこの石を脇へ転がしたのでしょう?」と。

 イラク戦争はこれらの石の一つです。大きくて、重い石です。それは、文化間に大きな分け隔てを作り出しています。ある人はこう言います。「これはイラクを民主化する宗教的使命だ」と。他の人は、「侵入者に対し戦うのは宗教的務めだ」と、言います。この戦争を、ある人たちはまるで宗教間の争いのように見たがっているようです。長い間培ってきたキリスト教、イスラム教の関係はどうなるのでしょう。私たちが絶望感に打ちひしがれても不思議ありません。私たちが、文化や文明の間に共通の理解を持ち込むのに成功したと思った時、目の前に大きな石がありました。この石を脇へ転がすのは誰でしょうか。

 私たちパレスチナ人は軍の占領により、長い間苦しんできました。時折希望の薄光がさすこともありましたが、すぐにまだ占領のままだと思い知るのでした。わが主のように、私達は世の権力者の不正義に苦しまれたわが主のように感じています。今、これまで以上の苦しみ、死と破壊があるかのように感じています。私たちの状況はすぐには改善されるだろうとは思っていません。ガザ地区、ラマラ、ツルカムやジェニンで家々が破壊されてきた人々に、私は何が言えるでしょう。自分の子どもを亡くした母親に何が言えるでしょう。仕事をなくし、おなかをすかせた家族に食物を与えられない男の人に何が言えるでしょう。働きに行こうとして検閲所で虐待されている親たちに何が言えるでしょう。新しく造られた高さ8メートルの壁と共に生き、その壁の後ろに留まらなければならない人々に何が言えるでしょう。これら事ある毎に憎しみが増し、暴力の連鎖が強まっていくのを見るとき何が言えるでしょう。私たちパレスチナ人は、二人のマリアやサロメと共にこう叫びます。この巨大な石を脇へ転がしてくれるのは誰?

 イスラエル社会と、恐れて生きている人々を見るとき、彼らの恐れが、パレスチナ人に対する彼らの更なる安全を強要しているのがわかります。イスラエル人の恐れとそれに対する彼らの反応を見るとき、私は時々単純にこう尋ねます。「何故彼らは自分で占領を終わらせ、パレスチナ人と隣人として安全に生きることを真剣に考えないのだろう」と。けれども悲しいことに、彼らの恐れもまた強まり、そのため更に不安が増しているように思われます。このことが、イスラエル人もまたいぶかりこの石を脇へ転がすのは誰?と問いかける理由です。

 私たちの石をすべて転がされるのは神です。復活された救い主キリストにおいて新しい生命と希望が私たちを待っているという、美しい真理を与えてくださったのは神です。これは私たちの希望です。この希望は神の中に在り、世の指導者や権力や威圧の中には在りません。

 今日、ご復活の日曜日、エルサレム即ちキリストの復活の町から世界に、私たちの唯一の希望は主の復活にあることを宣言します。希望が無いことに甘んじることを絶対に拒絶します。生きておられる主に私たちの確かな希望を見るだけです。

 神はこの復活の地で、弟子たちの間で働いていらしたと同じぐらい確かに、私たちの間で働いていらっしゃいます。神のなさり方は私たちにとり、しばしば驚きです。何故なら神は、弱者、傷つきやすい者の中に働かれます。コリント2の12章9節の中で主は「わたしの恵みはあなたに十分である。力は弱さの中でこそ十分に発揮されるのだ」と言われました。私たちにとって全ての望みが失われたと思われるそのときこそ、神が神の業を最も力強く示されます。二人のマリアとサロメが墓に来たとき、墓が閉ざされていると思っていたので、ショックを受け、打ちひしがれました。たとえ誰かが来て石を転がすのを手伝ってくれたとしても彼らはそこにイエスの遺体を見ることを期待していました。けれども、無かったのです。そこで彼らが見たのは、神の力の結果でした。全く予期しない形で!

 神は決して私たちを見捨てたりなさいません。石が全てそこにあっても-私たちがたとえ希望が無いように感じても、神の手、神の計画が私たちのために行われるのです。私たちを世界に対して真理の証人とされるのは、神です。私達は恐れ、絶望、悲しみ、失意、不正義、占領、暴力などの石を脇へ転がすよう任命され、力を受けています。お互いに支えあい、世界へ挑戦するための希望の道筋となるよう、神が私たちを招いておられます――戦争を止めましょう。憎しみを止めましょう。殺戮を止めましょう。十字架とキリストの復活に表される神の愛はずっと続き、終わることはないでしょう。私達はこの愛と希望を世に与えるよう召されています。私たちパレスチナ人キリスト教徒は、生命と希望の教会となり、絶望的な状況に希望をもたらし、神の愛の無いところに神の愛を教え、神に見捨てられたと感じるときさえも主により頼み、信じることを教えるよう召されています。このようにしてパレスチナ固有の教会は、一致の教会、復活の教会であり続けるでしょう。

 おそらく私達は、悩み、痛み、苦しみ、喪失感の只中にあって、憎しみ、怒り、苦しさにさいなまれてきたことでしょう。私達はいとも簡単にこれらのことが起こるのを知っています。信じられないほどの喪失感と苦痛を体験している人間です。今日、私たちの復活されたキリストは、あなたの中にあって、憎しみを愛に、敵意を友好心に、苦しさを信頼に変えることがおできになります。これはどのように起こるのでしょうか。私たちが憎しみや苦しみを神に告白するとき、私たちだけでは石を転がせないと告白するとき、それは起こります。その時こそ神が私たちの中にあって働き、思い石を脇へ転がし、神の愛で復活の喜びに変えてくださるのです。

 パレスチナ人キリスト者として、この困難と希望喪失のときに、状況や見込みがたとえ不可能に見えても、橋を架けるものとして留まる必要があります。私達は宗教間の会話を主張し続けたり、文化文明間に更なる理解を築き続ける必要があります。他人を尊敬し、他人の他者たることを受け入れるよう世界に教える必要があります。と同時に、パレスチナ人とイスラエル人が独立可能な国家の中で、隣り合わせに平和に正当に平等に生きることが出来るように、中東に平和のみを築く仲介者となる必要があります。平和の展望は決して終わらせてはなりません。そして復活の町エルサレムは二カ国と三つの宗教の母とならなければなりません。この平和の展望は中東の他の国々にも広がり、彼らが土地の主権を持ち、自決権や自分たちの市民社会を築く機会を持つことが出来ますように。

 パレスチナのキリスト教会は、世の中のメッセージとはかなり異なるメッセージを宣言します。私達はキリストと、私たちの間におられるその存在の真の希望と、全ての石が取り除かれるのを見る将来の希望にすがります。私たちに注がれる神の愛は、恵みの洪水のようです。毎日恵みの中で泳ぎ、キリストにおいて神の愛に浸ります。このようにして私達は世界が望みの無い状態と呼ぶ只中で、日々を続けることが出来るのです。

 キリストの復活の良き知らせは私たちだけに留めておくには余りにも良すぎます。神の聖霊は、素晴らしい報せを私たちに叫ばせてくださいます――キリストは復活された。私達は戦争や、私たちを隔てる占領を許しません。復活の希望や喜びを取り去る憎しみを作り出す、人間の悲劇や暴力連鎖を許しません。

 ルーテル教会の賛美歌は私たちに告げます。

"私たちの希望はイエスの血と正義の上以外には築かれない。
私は公言する、私の取柄は何も無い。全てイエスの名により頼む。

彼の誓い、契約、御血が私を支える、荒れ狂う洪水の中で。
全ての支えが流れ去ったそのとき、彼は私の希望の全てであり続ける。
私は固い巌、キリストの上に立つ、他は全て沈み行く砂地。"

 私達は復活された救い主に生きた希望を持っているので、キリストの証人として、希望の道として、平和と愛の楽器として、復活の業を続けます。

 キリストは復活された。キリストはまことに復活された!!


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