エルサレムからのHOT NEWS
−イスラエル・パレスチナの紛争の解決を願って−

この記事はイスラエルより発信されている「NONVIOLENCE (非暴力)」のホームページより、製作者 ラエド・アブサリア神父様の許可を得て「聖地のこどもを支える会」で翻訳したものです。


オリーブ・ブランチ NO.189

支配のためのシステムとしての外出禁止令
                  トワーヌ・ファン・テーフェレン

親愛なる友人の皆さん

 パレスチナの住民は心ならずも外出禁止令と封鎖の専門家になりつつあります。支配システムとしての外出禁止令の主な要素をこと細かに表すことで、私もこの新しい学術分野に貢献するつもりです。ベツレヘム便りやその他のパレスチナからの日記をお読みになっている皆さんにとっては、あまり目新しいことはないでしょうが、この体系化の試みは、たまにしか扉が開かれない檻の中の生活の様子を簡潔明瞭に理解するために役立つでしょう。

 半永久的な現象のようになりつつある最近のパレスチナにおける外出禁止令は、人々の生活を、心理的ならびに社会的、経済的に支配するための究極的方法です。次のリストは、ベツレヘム地域の恒常的な外出禁止令の下での生活から生まれました。

 不安の醸成。ほぼ1年の間に、外出禁止令の一時解除時間と再開時間が一層不明確になってきました。何ヵ月か前は、前日の晩にあらかじめ解除時間が分かっていることが普通で、次の日の予定を立てることができました。最近は、通知は早朝に行われることが多く、いつもその日のうちに変更されます。また、イスラエル軍の公式スポークスマンがパレスチナ連絡事務所に伝えたのとは異なるメッセージを、イスラエル軍のジープが通りで告げていることもたびたびです。例えば、「外出は禁止されている」と午前5時に知らされ、外出禁止令が敷かれるだろうと朝の早い時間に人々は考えます。それからすぐ後に、例えば午前9時から午後5時までの外出禁止令の一時解除が地元のテレビ局から伝えられます。外出しなければならない人は皆出かけます。特に親や仕事を持っている人は、その日の予定を立て直して、急いで子供を学校に連れて行き、学校に電話してスクールバスの来る時間を確認し、職場や同僚に電話して仕事の始まる時間を確認します。その後、午後2時にイスラエル軍のジープがいきなりやって来て、解除時間の終了は午後5時ではなく、例えば午後3時であると伝えます。人々はみな帰宅を急ぎ、ミーティングは延期し、解除時間の終了間際になって買物を済ませなければなりません。外出禁止令や一時解除時間の決定の理由はだれにも分からないので、不安は更に悪化します。イスラエルは公式な説明を行いません。しかし往々にして噂が流され、人々は当然ながら憶測を始めます。不安が続くと2つの結果をもたらします。

■ 1人の例外もなくすべての人が外出禁止令とその理由、その変更について話し始めます。
 いつも通りの何かをする時間が残っているときは、通常の生活の要求に段取りをつけようと人々は一生懸命になります。例えば、学校や大学生の試験の予定を立てることは、あちこちに電話をかけまくり即時に決定しなければならない大変な仕事になっています。
 日常生活において通常のような予想がつかなくなると、人々は不安を覚え気弱になります。

 人々に屈辱を与える。直接の占領と外出禁止令の状況の中で、多くのイスラエル兵と民間人の間に接触があります。これらの接触すべてに、直接あるいは間接的な屈辱の要素が存在します。「mamnu'a tajaawel」あるいは「tajaawel mamnu'ah」(外出を禁止する)という言葉はとてもよく使われています。これは文法的に誤っているので、自分たちの言葉をイスラエル兵にもてあそばれているような気分にさせられます。兵士たちはしばしば、ことさら屈辱的で残酷ないたずらをします。例えば、車のキーを草むらなどの厄介な場所に放り投げて、ドライバーが長い時間をかけて探さなければならないようにすることです。最近ベツレヘムで外出禁止令の間に捕まったドライバーたちは、結婚式のようにクラクションを鳴らしながら、車を連ねて街中を運転するように強制されました。また、外出禁止令の解除時間と再開時間が絶えず変更されているために、だれかにもてあそばれているような気分にさせられます。あたかも、家畜小屋から追い出されたり追い込まれたりしている動物のようです(この例えは地元の人がしょっちゅう使っています)。外出禁止令とは別に、検問所においても数え切れないくらいの屈辱の場面に直面します。検問所を通る人々は異常な要求を突きつけられます。お互いにキスをさせられたり、歌を歌わせられたり、通りを動物のまねをして這いまわらされたり、あたかも存在しない者のように、立たされたり座らされたりしたまた何時間も放置されます。もちろん、自分の町や村の境界を越える機会がある度に身分証明書の提示を強制されること自体とても屈辱的な経験です。

 生き残りのための戦略に頼ることを余儀なくさせる。外出禁止令は多くの家族にとって継続的な緊急事態です。仕事も収入も無く、人々は生存の問題に直面させられています。家に仕事を持ち帰ったり、家の近くで仕事をしたりすることができる人もいます。しかし大多数の人々は仕事が無いか、仕事に行けません。外出禁止令の状況下では、通常は手の施しようがある問題も、危機的な程に深刻なものとなります。例えば事故の場合には、どうやって医者を探そうか、どうやって医療費を払おうか、どうやって病人を適切な病院に連れて行こうかといったことです。比較的最近ふえた、生きるための新たな問題は犯罪の増加です。原因の一部は貧困の増大にあります。外出禁止令の出ている間、人のいない店や倉庫に犯罪者が侵入し易くなっています。また、通りに警察がいないので、それはさらに簡単になっています。

 恐怖感を植え付ける。外出禁止令が出ている間、銃を発射したり催涙弾や音響爆弾を投げつけたりすることで恐怖を植え付け、人々を通りから退去させようとします(特に一時解除時間の開始直前や終了直後)。特に夕方や夜間人々は家宅捜索や逮捕の恐怖の中に暮らしています。若い男性は逮捕と投獄を恐れています。外出禁止令の間に車で用を足しに出かけると、車のキーを壊されたり没収されたりする場合があります。キーをまた手に入れるまでは車を放置しなければなりません。(この記事を書いていたところで、隣人がやって来て、外出禁止令の間に通りで捕まえた車を入れるので門を開けるようにと2分前にイスラエル兵に命じられたと言いました。運転していた女性は、私たちの家の敷地の入り口に車をとめ、数キロ離れたベイト・サフールまで徒歩で帰宅し、一時解除時間になったら車を取りに来るようにと命じられました。これはとても寛大な処置だと隣人と私は考えました。)外出禁止令の間に開店しているのを見つけられた店は、催涙ガスを中にまかれるか、商品を床にたたき落されます。身分証明書も取り上げられ、取り戻すのに苦労することがあります。また、名前をブラックリストに乗せられると、貴重な海外渡航許可証を手に入れることが困難になります(いずれにせよ海外に行ける人はほとんどいません)。キーワードは「かもしれない」です。だれも、自分や自分の家族、友人に何が起こるか分からないのです。

 依存状態を創り出す。外出禁止令の間、生きるためのいろいろな要求が高まります。そのために依存感が強まります。イスラエル軍は私たちにいつも依存感を持たせたがっているように思えます。これには例えば、店の特定の品物の供給を2週間ほど遅らせたり、ガスの供給を2日間遅らせたり、ある期間だけ旅行や移動許可証の取得を容易にしたりという手段をとります。外出禁止令の一時解除時間が不確かなために、イスラエル軍が持っていて自分が持っていない情報に対する主観的依存感が醸成されます。

 コミュニティーの分断。ベツレヘム地域では、外出禁止令の一時解除時間を利用して、コミュニティーに宗教的な敏感さを生み出したり、それをもてあそんだりすることが意図されている場合があります。例えば、イスラム教の12月の断食明け大祭の間は外出禁止令が出されました。一方12月25日のクリスマスには外出禁止令は出されませんでした。しかしながら、総じて現在の外出禁止令はキリスト教徒とイスラム教徒のどちらもえこひいきすることなく、両方を対象にしています。

 混乱を醸し出す。特に外出禁止令が長引き、一時解除時間が貴重になってきている現在、店や通り、オフィスなどの至るところで、混乱した行列をよく見かけます。長期間外出禁止令の状況下で暮し、人々は抑制が効かなくなり、争いや自動車事故が頻発しています。従業員やスタッフ、顧客あるいは教師と生徒が、地域毎に異なる外出禁止令や封鎖のために、オフィスや店舗、学校に同時に来ることができずに、組織では予定を立たず大混乱の域に達する場合があります。電話も不通になることがあります。

 公的生活の剥奪。外出禁止令の間、通りは(ほとんど)もぬけの空で静まり返ります。公的生活は隣人とのおしゃべりや、電話での会話、めったにいない外出禁止令を破る人同士やこっそり開いている店の中で買物とおしゃべりをする人同士の会話に変わっています。通常の人と人との交わりが無ければ、同じ状況下に置かれている人々の間に強い共感と連帯があったとしても、コミュニティーはばらばらになってしまいます。

 無気力を植え付ける。これまでの継続した外出禁止令で、人々は時間や目的についての感覚を失いつつあります。ただテレビを見たり、何もしていない人々が多く見られます。これらの人々には活力や行動、焦点が定まった会話が欠如しています。学校では生徒はリズムと集中力を欠いています。

 人々の息を詰まらせる。封鎖により人々はすでに息苦しさを感じていますが、外出禁止令で人々が移動できる領域はさらに制限されます。自分の家が監獄と化します。さらに、物理的な封鎖のみならず、心理的な封鎖に人々は直面しています。人は閉じ込められると、希望やチャンスについての展望を見出すことが難しくなります。願望は小さくなってしまいます(例えば「せめてもう2、3時間長く解除時間をイスラエル人が認めてくれたら」というような願望です)。

 隔離の強制。外出禁止令はその対象となる区域に、外国人やジャーナリストも含めて、ほとんどだれも入れないということを意味します。なぜならその区域は往々にして軍事封鎖区域でもあるからです。つまり人々は時間的にも、空間的にも隔絶された 「無の国(Nothingland)」に住んでいるのです。

 それにも関わらず、どんなシステムにも、そしてどんな支配のシステムにも穴があります。来週はこのシステムに入ったひびと穴について報告します。



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