オリーブ・ブランチ NO.187
ベツレヘムだより(45) 2003年1月11日
トワーヌ・ファン・テーフェレン
先週の土曜、パリから帰省していたマリーの姉たちは私たちにさよならを言って、外出禁止令の中、荷物をみんな持って、抜け道としてパレスチナ人とイスラエル軍の両方が知っているベイト・ジャラの小さな丘を越えてベツレヘムを抜け出しました。「昔のベルリンの壁を越えるような感じよ」と後日マリーの姉は語りました。マリーの姉たちが発った後、まるで手で触れることができるような、外出禁止令のあの沈黙を感じました。午後になって、春のようなすばらしい天気に誘われて外で遊んでいる子どもたちの声が時折聞こえました。隣の人が家の前の階段に腰かけて吹いているハーモニカの優しい音色が聞こえてきました。その夜また爆発が聞こえました。以前、近所の楽器店のドアをイスラエル兵が爆破したことがあります。だれかがそこに潜んでいるに違いないと言うのがその理由でした。またもや「静かな、神聖でない夜(silent,
unholy night)」の間に、今度は隣人が車をロープで敷地から引っ張り出されて盗まれました。パレスチナ警察に通報はしたものの、外出禁止令が出ているのでどのみち来られないと言われました。最近は、盗難事件をしょっちゅう耳にします。外出禁止令のために、人がいなくなった場所や店舗に容易に侵入することができるからです。そしてもちろん、貧困の悪化が犯罪を生んでいます。「家にいる時はいつも内側からドアを閉めておくように」と訪ねてきた人に注意されました。
数日前のテルアビブでの自爆テロは、多くの死者を出したことだけでなく、その結果についてすぐに人々が心配し始めた点で、不安を覚えました。今回はアラファト議長の包囲の時のような「あっと言わせる」目を引く措置は何も取られず、いわゆる管理的な措置が取られました。35歳未満の(つまりパレスチナの人口の75%にあたる)パレスチナ人は自分の町や村を出ることが許されません。この措置の影響を受けている人に聞いたところでは、イスラエルの身分証明書と外国パスポートを持っている者でも移動を許されないそうです。イスラエルの発表によると、一連の措置には、パレスチナの3つの大学の閉鎖が含まれていますが、現在に至るまでどの大学が対象になるのか明らかになっていません。西岸地区北部のジェニンで学んでいた、エリアスの息子ファディーはしばらくの間身動きが取れませんでした。しかし、危険を冒して野原を歩き、タクシーを乗り継いで、10時間と多くの費用をかけて南に200キロ足らずのベツレヘムにたどり着きました。占領の大部分は、安全に対する脅威がどの程度かに応じてパレスチナ人を分類する管理的な措置で構成されています。男性で若ければ、誰でも安全に対する脅威になります。爆弾テロ作戦が計画された町に住んでいる人はだれでも、安全に対する脅威になり、外出は禁止されなければなりません。難民キャンプは、安全の最上級の脅威として扱われています。つい昨日ラケルの墓の裏手にあるアイダ・キャンプで、投石していた若者1人をイスラエル兵が射殺し、数名を負傷させました。まるでそんな理不尽な殺戮がいつのまにか当たり前になってしまったかのように、あきらめきった声でこの事件のことをマリーが教えてくれました。
軍事力と侮辱、移動の制限、そしておそらく貧困という、占領を実施するための目に見える方法の他に、たびたび見逃されているもう1つの要素があることに気がついてきました。それは不安を生み出すことです。現在の懲罰措置が解除されるかあるいは「緩和」されるか、それとも完全に施行されるかはもちろんだれにも分かりません。そのため生活や仕事、教育についての計画を立てることがだれもできません。ベツレヘムの人々はその日その日で予定を決めるとよく言っていましたが、現在では外出禁止令が四六時中変更されているので、たぶんその時間その時間で予定を決めるということになるでしょう。もっとも、意図的に不安を生み出すのがイスラエルの政策だとしても驚きません。今週になって外出禁止令の今後の継続期間について、たくさんのうわさが急に流れてきました。あるうわさでは10日間、また別のうわさでは今月末のイスラエルの選挙後まで、さらに別のうわさでは数ヵ月とされています。うわさの出所は明らかではありません。イスラエルとの連絡事務所も、公式、非公式にかかわらず、イスラエルから何の情報も受け取っていないとのことです。そのため、イスラエルの協力者がうわさを立てているのではないかとの憶測も流れています。また、今週は燃料が手に入る日があり、そして別の日には供給が断たれるということがありました。まるでイスラエル軍が人々の神経をもてあそんでいるかのようでした。自分の人生を自分で決められず、他人に強制された恣意的な政策の下に置かれていると常に感じることの心理的影響は、特に長期間わたった場合は相当なものに違いありません。エルサレムの心理学者によれば、その結果のひとつとして、自尊心の萎縮と人間の尊厳の喪失があります。
早朝スクールバスを待っていたところ、外出禁止令が出ていて休校だと、通りかかった人が私とヤラに教えてくれました。知りませんでした。テレビでは言っていませんでした。それで家に戻りました。ヤラは何となく安心した様子でした。初めは学校に行きたがっていたのですが、学校は休校でした。現在(昨日と今日)学校は開校していますがヤラは行きたがりません。また、エリアスの子供とファウドの孫も行きたがりません。すべての子供はリズムを乱していて、少し怠惰になり、混乱してきています。午後レストランで外食をする約束をしたら、やっとヤラは学校に行くことに同意しました。家でヤラに補習をしてあげることにしました。現在学校の教科書を毎日1時間勉強して、リズムを保っています。
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