エルサレムからのHOT NEWS
−イスラエル・パレスチナの紛争の解決を願って−

この記事はイスラエルより発信されている「NONVIOLENCE (非暴力)」のホームページより、製作者 ラエド・アブサリア神父様の許可を得て「聖地のこどもを支える会」で翻訳したものです。


オリーブ・ブランチ NO.186

東方の賢者…平和を求める大主教ミシェル・サバー
                                  Geoff Baker

 エルサレムのローマンカトリック教会大主教ミシェル・サバー師はナザレ出身のパレスチナ人である。彼は、イスラエル、パレスチナ、ヨルダン、サイプラスに散らばるおよそ70,000人のローマカトリック教徒の指導者だ。イスラエルや西側諸国の多くの人々は、彼のことをパレスチナのパルチザンとみなしている。

 あらゆる意味で、実際彼はパルチザンであるかもしれない。彼はこれまで、公の場でも私的な場でも、ジャーナリストに対して話をするときには常に自らの立場を明確にしてきた。昨年の5月に発表した文章には、彼がそれまで、そしてそれ以降、守備一貫して示してきた主張が表れている。占領を停止すれば、平和がもたらされる、という考えだ。

 「パレスチナ人とイスラエル人との間の紛争は、基本的にはパレスチナ人によるテロがイスラエルの安全や存続を脅かしているという問題ではない。問題なのは、1967年に始まったイスラエル軍の占領がパレスチナ人の反抗を煽り、それがイスラエルの安全を脅かしているということなのだ。」

 「人は、非難したり、報復したり、宣戦を布告することを通じて、様々な暴力と戦かおうとするが、結局は無駄に終わっている。問題の原因が存在する限り、結果はかならずもたらされる。占領がある限り、連鎖的な暴力は続く。両者の側で、戦士たちや、罪のない人々が死んでいくのだ。」 とサバー師は語る。

 それでもキリスト教徒の指導者として、サバー師は断固として非暴力的な手段で紛争解決を実現しようとしている。大主教としての彼のモットーは、「In The Beauty of Peace」である。この膠着状態から抜け出す唯一の方法は、平和を信じ、暴力的手段ではなく平和的な手段でそれを構築することである、というのが彼の信念だ。

 平和と非暴力を求めて、サバー師は昨年の8月、イスラム原理主義組織「ハマス」創設者であり同組織の精神的指導者である、アハメド・ヤシン師を訪問した。イスラエル人をターゲットとした自爆テロ攻撃を停止し、積極的に和平構築のために尽くすようにとハマスに働きかけることが目的だった。

 当時、サバー師のスポークスマンは、訪問の目的は、単に暴力を止めるようヤシン師を説得することではなく、平和のために積極的に努力するよう導くことであると語った。

 この訪問は非常に珍しいことであった。テロリストを抑えることができなかったという理由から、パレスチナ指導者ヤセル・アラファト議長はイスラエルによりラマラの大統領官邸に監禁されている。それでもサバー師は権力基盤が本当はどこにあるのか知っていたようである。

 ガザのヤシン邸での2時間にわたる会談の間、大主教にはエルサレムの英国国教会主教リア・アブ・エルアサル主教と福音ルーテル教会のマニブ・ヨーナン議長が付き添っていた。

 占領が終わらないのであれば、暴力は終わらないとヤシン師は断固たる態度であった。

 大主教とハマス指導者との会談は、2度目であった。最初の会談は1996年、ヤ
シン師がイスラエル刑務所から釈放されたことを祝ってサバー大主教がヤシン師を訪問した時のことだった。

 今回、サバー大主教は、世界中のメディアに流されるクリスマス・メッセージを通して、自らの見解を明確に伝えるというさらに大胆な行動を取った。「もし両側の現指導者が和平構築を達成することができなければ、解決策はたったひとつしかない。他の指導者に道を譲ることだ。現在の指導者がしくじったことを、他の指導者なら成功できるかもしれない。」

 サバー師はこれまで、シャロン政権は和平構築を成功できなかった、という自らの見解を隠さず表明してきた。さらに今度は、長年好意的な態度を示し、支持をしてきたアラファト議長であっても、和平構築を達成することができなければ、後継者を据えるべきだと言っているのだ。

 これはどういう意味かとある記者がエルサレムでの記者会見で尋ねると、サバー大主教はこの発言の対象となるのはあらゆる指導者であり、ヤセル・アラファト議長もその例外ではないと答えた。

 これは、インティファーダや暴動は結果的にはあまりよいやり方ではなかったのかもしれない、とアラファト議長が発言したことをパレスチナ人の側近が語ったわずか数週間後のことだった。インティファーダや暴動を起こしても、パレスチナ人にとってはまったく無益だった。経済は壊滅状態にあり、人命は失われ、パレスチナ国家樹立の希望はこれまで以上に遠のいてしまったかのように思われる。

 昨年、サバー大主教は和平構築に対する貢献を認められ、2002年10月、中東和平への努力を賞して、「平和と和解 のコベントリー賞」を受賞された。同賞を同時に受賞したのは、ユダヤ教ラビでありイスラエル前副外相であるメルキオール師と、パレスチナ自治政府の前宗教対話相であり、パレスチナ指導者ヤセル・アラファトのイマーム(イスラム教の導師)であり顧問でもあるシーク・タル・エル・シダー師であった。

 この3人は、和解実現のために危険を犯し、当時まだカンタベリー大主教であったジョージ・ケアリー卿と中東大使のキャノン・アンドリュー・ホワイト氏の呼びかけで行われた平和プロセスのアレクサンドリア会議の指導者でもあった。

 ユダヤ教ラビのメルキオール師と、シーク・タル・エル・シダー師と共に、サバー師は2002年10月21日のアレクサンドリア宣言の調印において主要な役割を果たした。7つの項目からなる宣言は、聖地の様々な宗教、政治指導者たちが、暴力の阻止と平和プロセスの回復のために努力することを宣言している。また、聖地の三つの宗教の指導者から構成される恒久的な委員会を設置し、宣言の実行を図ることを想定している。またイスラエルとパレスチナの政治指導者たちが、ミッチェルおよびテネット提案を実行することを呼びかけている。

(註)ミッチェル提案とは2000年11月にパレスチナに派遣された、元米国上院議員ジョージ・ミッチェルを代表とする、シャルム・エルシーク(エジプト)で開催された停戦会議の合意の執行状況を視察するための訪問団の報告。パレスチナ側に自爆攻撃をやめさせること、イスラエルには2000年9月のアル・アクサ事件以前の境界線に戻ることなどを提案する内容のもの。テネット提案とは、ミッチェル提案の執行状況を視察するために2001年6月にパレスチナに派遣されたCIA長官であるジョージ・テネットの報告を内容とするもので、シャロン首相に攻撃を停止してパレスチナ側に考慮する時間を与えるよう提案している。

 サバー大主教は、心情的にはパレスチナ人のパルチザンであるかもしれない。しかし、彼はまた、自分を信じる人々に対して特別な愛情を持つ司教でもある。彼は辛抱強く平和と和解の福音を説く聖職者でもある。また彼はキリスト教徒として決して希望を捨てることのない賢者でもある。だからこそ、彼は声高に発言をし、しかも大胆にそれを行うことができるのだ。

 彼は熱心な信者であり、2001年9月11日の惨事の後、エルサレムの平和とイスラエル、パレスチナ間の紛争の終焉が世界平和への鍵であると語った。

 彼は、平和が平和を呼び、暴力が暴力を呼ぶことを繰り返し説いている。世界が足を止め、耳を傾けるときが来ているのではないか。



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