- Elysee -
 
 

「おい、何みっともない顔してんだ?八戒、」
 頭上から注がれた声にはっとなって、八戒はその主を仰ぎ見る。そこにはいつもと変わらぬ 悟浄のくりりとした瞳があった。
「八戒?」
 ぼんやりと言葉を失っている僕を、悟浄は珍しいものを見るような眼差しでひとしきり眺めた後、悪戯な微笑みで迎えてくれた。安堵した僕の口から漏れた声が、余程間抜けだったのか、悟浄の脇に立っていた若い白衣のエンジニアが頬を緩める。
「特に、問題はないようですね。こちらにサインして頂いて、本日の定期メンテナンスは終了です」

 僕はそそくさとサインをして、幾分すっきりとした顔つきになっている悟浄の頭を撫でた。くしゃくしゃといつものように掻き撫でると、悟浄は満足そうに僕の手を取った。
 小さな手が、暖かく温もっていた。
「お帰りなさい、悟浄」
 唐突に、そんな言葉が口をつく。その言葉に驚いた様子の悟浄が、つないだ手に力を込めた。強く、握り返してくる手が微かに震えていた。
「・・・ただいま・・また会えて、よかった・・・」
「悟浄?」
「あのまま、八戒と会えなくなったらどうしようって思ってて・・・」
「もしかして、知ってたんですか?」
「・・うん。そう言うことがあるかも知れないってことは、オーナーの所に引き取られた時にちゃんと聞かされたから・・だから・・・オーナーの会合って嘘なんだよ」
「えっ」
「俺、どうしても八戒と一緒に居たくて、最期の瞬間まで八戒と居たくて・・・オーナーに頼んだんだよ」
 悟浄の綺麗な紅色の双鉾がゆらりと揺れて。
 僕は、彼の高さに視線を併せて、思わず、両腕の中にそっと悟浄を抱きしめていた。

 
 
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