「資格・・・ですか?」
そう言えば、聴いたことがある。確か、「ペット」の所有者になる為には、厳しい査定があって、マスターライセンスが発行されるのだ。感情を持つ人型故、無闇に棄てたり出来ないようなシステムがきちんと作られていて、厳しく管理されている。所有者としての資質に欠けるものからは、資格を剥奪し、所有されていた「ペット」達は記憶集積回路をリセットされて、新しい固体として再生される。
その話を聴いた僕は、少し哀しい気がしたのを覚えている。
もし、棄てられるのではなくて、どうしても手離さなければならなくなった時、その子の中で蓄積されたマスターとの記憶は、何処へ行ってしまうのだろうかと。やはり、リセットされて、再生されてしまうのだろうか。
僕は、ちらりと悟浄を見る。とても幸せそうな顔をしていた。
「結構煩くてさ、年3回のメンテナンスは必須事項だから」
「でも、僕が連れて行くのは大丈夫なんですか?マスター以外が同伴するのって、その、所有者の資質とやらに引っ掛かるんじゃ?」
都合の悪いことに、メンテナンスの指定日にあたる年末の二日間、オーナーはどうしても外せない何かの会合に出かけなければならないらしいのだ。メンテナンスの期日をずらしてもらうことは可能らしかったのに、このオーナー、その申請をすっかり忘れていたと言う。
この人は、どこか、抜けている。
「それは、大丈夫でしょ、」
オーナーは、何故か不思議そうな顔をして僕を見ながら、ネル袋の先端を持って柄を回すと、きゅっと力を込めて水気を切った。
「はいっ」
悟浄の紅葉手の中の引出しから、深炒り豆の芳醇な香が溢れて、僕の鼻孔を心地よく刺激する。初めて飲んだオーナーの珈琲の味が口の中に甦っていた。柔らかな苦みの中に、優しい甘みを得た独特の味わいが、今でも忘れられずに、僕は、目を離さず、オーナーの所作を観察していた。
豆は深炒りの細挽き。
抽出液は濃厚になる。
オーナーは、水気を切ったネル袋に、さくりと挽粉を入れ、軽く振って表面
を平らにすると、粉の中央に匙を落として窪みを付けた。
|