- Camellia Sinensis -
 
 

 言う間に、オーナーは三つのカップに淡いオレンジ色の水色の液体を手際良く注ぎ入れた。カップの上の銀のストレーナーをこして立ちのぼるベルガモットの薫りが、ほんのりと甘さを誘う。
 お茶受けに小皿に盛られているのは、パステルカラーの金平糖だった。

「さぁ。どうぞ、」

 オーナーの入れるお茶と珈琲、そして茶菓は魔法の媚薬だ。これを戴いてしまえば、僕はきっと悟浄のわがままを聞き入れてしまうのだろう。
 
伸ばした手が、カップを取る。まろやかな苦味を楽しみながら、ストレート(正式にはブラック)で嗜むブレンドティーに喉を鳴らした。

 この人には叶わない・・・

「鳩羽さんは、白い羽を持った悪魔のような人ですね」
「ふふっ。そう言う八戒さんは、黒い羽を持った天使様かな?」
 決して怒ったことの無いオーナーの笑顔が、そっと悟浄に落とされる。
「交渉成立?」
 もう一度同じ言葉に乗る感情は、オーナーの笑顔に比例した幸福の響き持って、八戒をちくりと刺した。

 やれやれ。

 記憶をたどる。新年が明けて一週間が過ぎたあの日、悟浄が言った一言が、僕の悪夢のはじまりになる。そして忘れもしない、その言葉を聴く数時間前、ふらりと寄った「ペットショップ」で不覚にも、僕は一匹の猫に一目惚れをしてしまったのだ。

 僕は、白くて、ふわふわとした猫耳の少年を衝動買いした。

 
 
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