「それなら、大丈夫」
確信に満ちた言葉で、オーナーはこくりと頷いた。
「大丈夫・・・って」
「だってほら、うちの彼は〜ノンケもノンケ。牝にしか興味ないから、大丈夫でしょっ。間違っても牡の子猫ちゃんを襲うようなことはないと思うのよね。ねっねっ」
子供のようにはしゃいだ語尾がとても嬉しそうで、僕は半分呆れて溜息混じりに窓の外を窺った。
窓の外、表通りに面した大きなFIX窓の向こうで小さな影がこちらに向かって手を振っているのが見えた。噂の主の御登場だ。
僕は軽く右手を挙げて、反射的に笑顔を作る。所謂、営業スマイルと言うには些か柔らかさを含んだ微笑みを返すと、冬の日射しをいっぱいに浴びた赤毛の彼は、くりりとした少し上がり気味の紅い瞳を嬉しそうに輝かせた。黒いコートの胸の前で、抱えた小さな包みのリボンが揺れている。
別に、僕はこの彼が嫌いなのではない。
嫌いではないけれど・・・
カラコロロン。
磨り模様の施された硝子戸が、カウベルの音とともにゆっくりと開かれる。小さな手が、その身体には少し大きめの扉を押して、無邪気に笑んだ顔がひょっこりと覗いた。
「お帰りなさい、外は寒かったでしょ。悟浄、」
オーナーは親愛の情を込めた眼差しを、人型愛玩動物-通称ペット-と呼ばれている彼に向けた。型式は、少年typeA。様式は、ノーマル。種別
は、兎。色別は黒。名前は、悟浄。
要約すると、痩身の黒い兎耳を持ち、オーナーが「悟浄」と言う名前をつけて可愛がっている少年型愛玩動物、と言うところだろうか。
|