「あの・・・それはちょっと、やはり困ります」
困惑した表情の僕を後目に、限り無く年齢不祥、性別不明に近い、掴みどころのない飄々とした風体のオーナーは、カウンターの奥で湯が沸きあがるのを待っていた。
「でもね、八戒くん。ものは考えようですよ」
柔らかく、おっとりとした声音が言い含めるように嘯いて、その頬はにこりと微笑む。罪のない表情を向けられて、僕は返答に窮してしまった。
この人はいったい・・・
「ねっ。二匹も一匹も大して変わりはないと思うんだけどなぁ」
そこでオーナーはすっと手を挙げる。流れるような仕種で、茶缶の中から茶葉をポットへと落とし入れた。スプーンが4往復する間に、図られたように湯が沸き上がる。間を置かず、熱い湯を注がれた硝子ポットの中で、気持ち良さ気に葉が踊った。
メリオールの中よりも広い容積を与えられた茶葉の叢が、綺麗なジャンピングで僕の目を奪い、澱み無く進行する儀式のように、オーナーの手が蒸らし時間を計測するための砂時計を返した。
その所作は、いつ見ても手品のようだ。
いや、それはそれとして・・・
「僕、彼が嫌いで言ってるんじゃないんですよ。ただ、種別
の違いがありますし、うまく共存できるかどうか・・・」
「猫と兎?大丈夫でしょ。うちの赤毛くんはフェミニストだし。躾もちゃんと出来ていると・・・思うし」
オーナーは少しはにかんで、顎に手をあてる。天井に流された視線が、不安そうに宙を舞った。
「八戒くんが買った子猫ちゃんは、牡?」
「はい。一応・・・」
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