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※このお話は『雨やどり』というパラレルの学生ゾロサンです※

Honey Honey Crescent Moon

<Vol.1>

 愛車フェラーリはあまり機嫌がよろしくない。
 空はどんより曇り空で、楽しい旅行の始まりにはとても幸先が良いとは言えない状況の中、助手席に座っているサンジの機嫌が良い事だけが救いだ。
 ラジオから流れるメロディを口ずさみながら、観光ガイド本をパラパラ捲っている。道案内はカーナビがしてくれるので、言われるがままにステアリングを握るだけだが、どうやらこの先は暫く直線コースのようで、特に曲がらなければ迷う事も無い。世間の夏休みを避け、土日を避けた為か、道もさほど混んでいない。
 後は、機嫌の良くないこの車がいきなりストップしない事を祈るだけだ。
「なぁ、ドコ行きたい?」
 視線は雑誌に向けたまま、ご機嫌な声でサンジが問いかけてくる。
「あ、ドコでも。つか、お前が行きたいところでいい」
「なんだよ、つまんねぇなー!あっ!なぁなぁ、バナナワニ園とかある!!ココなんか行きたくねぇ?バナナとワニだぜ?どんな組み合わせだよなぁ?あーでもコレって熱川の方か」
「遠いのか?」
「や、そんなに遠くはねぇけど、熱海の先になるんだよなぁ」
「んじゃ、明日そっち回ればいいじゃねぇか。どうせ車あるんだし」
 少しだけ考え込むようにしていたサンジが、ゾロの言葉を聞いて一気に笑顔に変わる。

−− 可愛い…

「んじゃ明日は熱川バナナワニ園な!!今日は〜、熱海近辺をウロウロして、飯喰って…あ、オレ弁当作って来たからよ、どっかで喰おうな」
「…おう」
 あんまり可愛いので、このままココで弁当より先にサンジを喰ってしまいたい衝動に駆られたが、サンジの機嫌は変わりやすい。それはもう山の天気の比ではない。それを熟知しているゾロは、心の中で夜は二人で温泉。二人で一緒に風呂に入る、と呟いてその場を収める事に成功した。別の意味で収まらない状況になりそうだったが。
「あ、コレは見とくべき?『お宮の松』」
「何だそりゃ?」
「お前知らないの?有名だろ『金色夜叉』って。今月今夜この月の〜って奴だよ、見たことねぇ?読んだ事ねぇの?」
「…知らねぇよ」
「や、まぁ、オレも詳しくは知らねぇけどよ。男がサイテーなんだよな、コレ。裏切られたからって、レディに対して復讐しようなんて考える奴だぜ。レディを足蹴にするなんて、許せねぇよな!」
「へぇ…」
 サンジの正しくない知識を、ゾロの脳はそのまま受け取ってしまう。その為ゾロの中で『金色夜叉』とは男が最低な奴で、女に復讐する話、と決着が付いてしまった。
 ついでに、赤城の山も今宵限りか…と言う、別の話も一緒になってとんでもない内容になってしまっている事は、ゾロだけが知っていれば良い事である。

「あ、ハーブガーデンとかある。オレベランダにさぁ、プランターとか置いてハーブ育てようかと思ってたんだよな。行ってみてぇな、ココ。なぁ行っていいか?」
「ああ、構わねぇよ」
「生のミントとかローズマリーとか、ハーブ類使えたらいいよな」
 何の事かイマイチ分からないが、サンジが楽しそうなので良しとする。
 ベランダでハーブでもトマトでもオクラでも、何でも栽培してくれ。

「おおっ!!何か凄いのあるぜ?『秘宝館』だってよ!!ルフィが聞いたら喜びそうなトコだよな?アイツ宝とか好きだろ?この前もさ、試合があるからって弁当持って学校行ったんだけどよ」
「…聞いてねぇ」
 ルフィの名前と、弁当という言葉を聞いてムッとしてしまう。

−− 学校に行った?

−− 聞いてねぇ。聞いてねぇぞ、ソレは

「アイツの部活ってのが傑作で」
 呟いた言葉が聞こえなかったようで、サンジはケラケラ笑いながら話を続けていた。
「聞いてねぇって」
 サンジの話を遮るように低い声で告げる。
「…は?何を?」
「学校行ったなんて聞いてねぇぞ、俺は。いつ行ったんだよ」
「言ってなかったっけ?」
「……」
 無言で首を振ると、サンジはきょとんとした顔で首を傾げた。ムッとしていた筈なのに、その仕種さえも可愛いと思うゾロは、もう末期だ。
「この前お前が丸々一日稽古とバイトで居なかった日。オレもバラティエ入ってたけど、旅行の手配しに行く予定があったから午後休み取ってたろ。ルフィが試合だ、弁当作ってくれ!って騒ぐから厨房で急いで作って、学校寄ってから代理店行ったんだよ」
「…ふぅん」
「……?」
 そっけないような、少しむくれたような、普段と大差のないゾロの反応だったが、サンジは微妙な変化を感じ、そして思い当たる。
「あー…オマエ、拗ねてんの?」
「…ああ」
 無表情のまま返事をするゾロに、サンジは笑みを深くした。
 ゾロの頭をグリグリ撫でる。
 嫌がるでもなく、ゾロは少しむくれた顔で視線だけでサンジを見た。
「…なんだよ」
「ふふふ。オマエ可愛いなー。よしよし。今日の弁当はオマエの為だけに作ったからな。思う存分食えよ」

−− すーぐ、コイツは俺をガキ扱いしやがる…

 それもまぁいいか、と視線を前に向けると、フロントガラスに雨粒が落ちて来た。
「あ…」
「ん?あー…とうとう降り出したか。オレたちってどうしても雨づいてるよな」
 二人視線を合わせ、苦笑いする。
 ポツポツと落ちてくる雨を眺めていた。



 車は一路熱海へ。

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2004/5/11UP


ああ…続く…(T_T)まだ出掛けたばっかり…
熱海…伊豆…すみません。地理が嘘つきだったらご容赦ください。
つか、近辺の方、教えてください…(爆)
『金色夜叉』も正しくないです。サンジ…掻い摘んで記憶しているようです。
※尾崎紅葉の未完小説