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あの素晴らしい愛をもう一度
<後編>
嬉しい。
もう手に入らないかもしれないと思っていた酒が目の前にある。
しかもそれを持って来たのが、迷子剣士だ。相変わらずその迷子っぷりには脱帽してしまうが。
嬉しくて思わず感謝しそうになったが、元々一人で飲んでしまったコイツが悪いのだと思い出した。それにきっとこの酒の意味もきっと分かっていないのだろう。そう思うと今度は逆に目の前で食事を平らげ、ビールを煽っているこの男に苛立たしさを感じた。
食事も終わったようなので、サンジは煙草に火を点けイライラと煙を吐き出した。
少し機嫌が良くなったと思ったが、時間が経つにつれサンジの機嫌はまたもや降下線を辿りつつあるなぁとゾロは思う。酒瓶を撫でていた手を離し、そっぽを向いて煙草を吸い出した事からも伺えた。
「なぁ…その酒…」
「あぁ?酒がどうかしたかよ?」
剣を含んだ返事が返ってくるが、ゾロは気にせず続ける。
「その…それ、すげぇいい年に作られた酒なんだろ?」
「そうだよ。そうなんだよっ!なかなかお目にかかれる酒じゃねぇし、手に入る事だって珍しいんだ。バラティエにだって1本くらいしか無かった。オマエは飲んだから味は知ってんだろ。大体なぁ、オレが良いって言った酒だけじゃ飽きたらず、秘蔵の酒を飲んで…しかも、一人で空けやがって」
一気に捲し立てられ、ゾロは頭を掻く。
「悪かった」
少しも悪びれた様子は無く、しかし困ったような顔をして謝ってくるゾロにサンジは言葉が続かなかった。
−−まぁ…あんな飲んでくださいとばかりな場所に置いてたオレも悪いんだけどよぉ…
「もうイイ…。とにかくこれから酒を飲む時は、オレが良いって言ったものしか飲むな。そのうちオマエはみりんにまで手を出しそうで怖いよ」
諦めたようなサンジの言葉に、ゾロはまたも頭を掻いた。
ゾロが買ってきた酒を掴み、床の貯蔵庫に仕舞いながら、ふと先程の疑問を再度投げかけた。
「そういや、オマエこれ買う金どうしたよ?この街にゃ狩れる海賊も賞金首も居ないみたいだったし」
「あ?ああ…まぁ…」
言葉を濁すゾロは珍しい。工事か何かの仕事でも単発であったのだろうかと、首を傾げる。
「まさか盗んじゃいねぇだろうな?あー…まぁ、そりゃねぇか。あの酒屋のオヤジも別にそうは言ってなかったしな」
「いや…酒屋であんまり高ぇもんだから、安くしろとか値切ってたんだけどよ」
「オマエが?!へぇ値切るなんて芸当が出来たのかよ」
揶揄うようなサンジの声にゾロは、お前がいつもやってるだろうがとだけ呟いた。それもそうだ、とサンジは納得する。正規の値段で買うなんて事はあまりしない。それにナミさんに怒られてしまう。
「それで?」
「ああ、まぁ暫く粘ってたんだけどよ、店に居た客が足りねぇ分を出してやるからって金貸してくれた」
「はぁ?見ず知らずの怪しい風体のオマエに?どんな奇特な奴だよ」
「怪しいは余計だ。近所のおばさんだってよ」
「おばさん〜?オマエ淑女に向かって、おばさんとか言ってねぇだろうなぁ」
「淑女って感じじゃねぇぞ、ありゃ。恰幅のいいおばちゃんだ、おばちゃん」
そんな事はどうでも良いのだ。それでどうしたと言うのだ。
「旦那が怪我しちまって、どうにも仕事が出来ねぇで困ってるから1日身体を貸してくれって言われて、山に入って木切り倒したり薪作ったりガキの世話したりしてた」
「はっ!…それでんな遅かったのかよ…?」
「晩飯前には出てきたんだがよ、山とか入ってたから…」
「ははぁ…また迷子になってた、と」
うるせぇ、もう寝ると一言呟くと、手にしていたグラスをテーブルに置いた。グラスのビールも底をついたようだ。立ち上がり扉へ向かうその背にサンジは声を掛けた。
「…ゾロ」
「…んだよ?」
珍しく名前を呼ばれたゾロは、驚いて振り向くとニッコリ笑うサンジの表情と間近で対峙してしまう。
「あのな…」
「ん?」
スルリと細い腕がゾロの肩越しに絡められる。肩口に額を載せたサンジが小さな声で、ありがとよと言った。
「ああ…」
「あの酒、オレらの生まれた年に作られたモンだって、気付いたか?」
「…そうなのか?」
戸惑うゾロの声に、サンジはクスクス笑う。やっぱりな、とかそんな言葉を呟いていた。
「一人でアレを空けたオマエにオレはムッとしたね。でもまぁ、オマエは知らねぇと思ってたよ。せっかくの酒だから、オマエの誕生日にでも開けてプレゼントにしてやろうって思ってたのが、水の泡だよ」
「あー…そりゃ…」
「てことで、あの酒は今度の誕生日までお預けな」
顔を上げてサンジがニッと笑う。
何であの酒の為なんかに、樵やら保育士やらそんな真似をしていたのか自分でも疑問だったが、ふと腑に落ちた。
−− そうか。このツラが見たかったからか
サンジの怒りがいつもと違っていた事とか、マズイ事をしたのかとゾロは無自覚のまま感じていたのだろう。
目の前にある笑顔にゾロは軽いキスを落とすと
「こっちはお預けじゃねぇんだろ?」
と、細い身体を抱き寄せた。
「ああ、仲直りしたのね」
「あの二人の喧嘩の原因聞いたら、こっちが腹立つわよ、ロビン。あんまり馬鹿馬鹿しくって。ま、それもいつもの事なんだけどねーっ」
「何だったの?」
ナミは一呼吸置いて、耳元で囁いた。
「………」
「…馬鹿馬鹿しいくらいに、痴話喧嘩だったのね……」
聞かなければ良かったと、ロビンは頭を抱えたのだった。それよりも、何故その事をこの航海士が知っているのかと、更に頭を抱えた。
2003/6/7UP
自分詐欺かと思いました。矛盾点も無視しちまいました(爆)
あああ〜…もうどう言いつくろっても…(汗)
*kei*