魔法にまつわるひとりごと

inside of the sandstone's house(Jordan1990)
かきまぜる

魔女が暗い地下室で、大鍋を火にかけている。
鍋の中では、赤、
が濃い灰色とまじりあい、ぐらぐらとゆらめきながら
不思議な甘い香りをたてている。
魔女はぶつぶつと呪文を唱えながら、
子供の腕ほどの太さの骨杓子を持ち、ぐるりぐるりと規則正しくかきまぜる。
左に7回、右に3回、左に1回。
そして1呼吸。
左に7回、右に3回、左に1回。
そして1呼吸。
欠けた歯の間からスースーと音をたてて息が漏れるたびに
その息は
灰色のネズミに変わり、暗闇のあちこちに走り去っていく。
煤と疣にまみれた顔に、チロチロと赤い火の灯った目だけが力強い光を放っている。

私は、子供の頃から魔女が魔法の薬をつくる場面に興奮する。
暗く
な視覚、湯気の湿気、不思議な香り、
杓子の重さとぐつぐついう力の感触、火の粉のはじける音、不規則なリズム、ゆっくりと重たい時の流れ。
鍋に入れるのは、ヒキガエルの血、コウモリの骨、生魚の目玉、美女の涙、日の出の瞬間の光ひとしずく。
そんな言葉の羅列を読むのは、目が潤むほどの、快楽。

JerUSArem-old city1990

かきまぜる。それは子供達にとっても果てしない快感だと思う。
やわらかな、生暖かい、感触。
泥や葉、花、種や木の実でつくったスープ、甘ったるいケーキ。
飽きることもなく、世界中の子供達が、様々なものをかきまぜている。

オノゴロ島は、イザナキとイザナミが鉾で海をかきまぜてできた。
太陽と月は、ヒンドゥーの神々がまんだら山を撹拌棒にして海をかき混ぜてできた。

なにもかもがどろどろにとけて、かきまざったとき
すすーっと一本、きれいに引き抜かれて生まれ出てくるものがある。
新しい何かの誕生。

人が生み出すことができる一番すごいものって何だろう。いのちかな。
いのちはセックスで生まれる
セックスも、やっぱり撹拌、かきまぜることじゃないかな。やわらかな、 なま暖かい感触、汗や体液でつくったスープ、甘ったるいケーキ。
これが10ヶ月後の赤ちゃん誕生のきっかけだなんて誰が、どうして知ったんだろう。不思議だな。

セックスは、私たち凡人にも与えられている混沌(創造へ)の手段。

Melting rock(Jordan1991)

一方で瞑想や禅なんかの修行も、意識を混沌(創造へ)にするんじゃないかな。

でもさ、セックスは生命を生み出すよね。
瞑想では何を生み出すのかな。
何だろうね。
私には、まだ納得いく「言葉」がみつからない。


こんな時には考えるのをやめて、ぜーんぶいっしょこたにして、ぐるぐるとかきまぜてみよう。
頭や胸の中にいくつもある大小の固まりみたいな考えやわだかまりを
全部細かい微粒子にして、ひろーい空っぽにまんべんなく漂わせるみたいに。
そしたら何か気持ちいい言葉が、すーっと抜けでてくるような気がするよ。

でてくるかな。