E-娘(11歳) & R-息子(8歳) & S-say-umi

2月の本棚
 グリムとジプシーは両方むかしばなしで似てるよね。と言うと娘と息子に全然ちがうよ! と一喝されてしまいました。息子曰く、「グリムは狼や人や赤ずきんとか、いろんなのがでてくるでしょう。でもジプシーの方はだいたいジプシーや鳥やよい魔女のウルマと悪い魔女のウルマとかね、でてくるのが同じなんだよ」。娘曰く「それでだいたいが仲間と離れて旅に出るんだよ」。なるほど、ジプシーのむかしばなしに出てくる登場人物は、ジプシー固有のものが多いです。しかし、グリム童話の中にある「金の毛が三本ある悪魔」とジプシーのむかしばなしの中にある「太陽の王の三本の金髪」は内容がほぼ同じです。盗賊と竜、悪魔と太陽、そして旅で出会うものの順番が異なります。同じヨーロッパ大陸の中ですし、同様の話が伝えられても何も不思議はありませんが、相違点を比べると、その民族の特徴がみられるようで面白いです。私が読む限り、グリム童話ではお話として不自然な展開が多く、ジプシーの昔話の方が矛盾の少ない展開になっています。それは、本にされる時点でどの程度脚色されたかによるのかもしれません。どちらにせよ、子供たちが読んだときの面白さは、ジプシーのむかしばなしの方に軍配があがるのではないでしょうか。機会があれば、初版グリム童話(小学館)とも比べてみたいと思います。→違いを見る

きりの国の王女 ジプシーのむかしばなし=2 選者S
再話/フィツォフスキ 訳/内田莉莎子 絵/堀内誠一(福音館書店)
 夜、寝る前に読みました。娘は読み終わってすぐに声を上げました。「えー! これでお終い? なんかいやだ!」息子も同様に満足いかない様子で「それでコロクルはどうなったわけ?」なるほど、私も同感です。第一話にある「きりの国の王女」は、こうしてこの世に金髪の人が生まれたのですというまとめで終わります。しかし、それまでドキドキしながら追ってきた肝心な登場人物達の物語は中途半端なままなので、読後の気分がおさまりません。
 しかし第二話で十分満足できたようで、読んだ翌朝、起きるとすぐに
息子が立て続けに言いました。「あれさ、顔にミルクがついてなかったらきっと大やけどだよね。」「どうして娘は答えを知っていたんだろう。」「きっと四角い鏡にも何か力があって変なことになっちゃうんじゃないかな。」私との受け答えでいろいろと会話が発展し、楽しめました。どうしてだろう、きっとこうじゃないか、次から次へと想像力がかき立てられるお話は、後々まで楽しめますね。

グリムの昔話 (2)林の道編・(3)森の道編 選者S
訳/矢崎源九郎 植田敏郎 乾侑美子 (童話館出版)
 先月に引き続き借りたグリム童話(2)・(3)です。息子は借りてきてすぐに「僕はグリムとドリトル先生読むんだぁ。」と楽しみにしていました。開いてすぐ、カバーに(1)の目次が書いてあるのを見て「あれ? この前読んだやつの題名がいっぱいのってる!」と目を輝かせていました。

ホビットの冒険(上・下) 選者S
作/J.R.R.トールキン 絵/寺島竜一 訳/瀬田貞二(岩波書店)
 ここ数年の間に私にとって3度目のホビットの旅です。ロード・オブ・ザ・リング2の上映が始まるので、あちこちで指輪の文字を見るためか、またしても読みたくなってしまったのです。3度目なので途中退屈するかと心配しましたが、それも杞憂に終わりました。1度目よりも2度目、2度目よりも3度目の感動が大きかったのには驚きです。1、2度目にも私は十分楽しんだはずなのですが、もしかしたらその時には次々に起こる出来事を追うので精一杯だったのかもしれません。3度目となった今回の旅では、時の経過と地理の広がり、ビルボの心理的変容、それらを私なりに体験できました。旅の終わりのガンダルフのビルボに対する感嘆の思いもようやく実感できました。私の読解力にて1度で理解することは難しかったようです。いつ4度目を読むことやらわかりませんが、きっとその時には今以上に大きな感動を覚えるのでしょう。楽しみです。
 さて、準備運動は終了です。続く大作、指輪物語にとりかかりましょうか。

ビルボの別れの歌 選者S
作/J.R.R.トールキン 絵/P.ベインズ 訳/脇明子(岩波書店)
 やっぱりこの本はホビットの冒険を読み、感動さめやらぬうちに見るといいですね。そして、ビルボが度々あの冒険を思い返して物思いにふけるように、私たちも時々、あの旅を思い返してこの本をひろげましょう。

もじゃもじゃペーター 選者S
作/ハインリッヒ・ホフマン 訳/ささきたづこ(ほるぷクラシック絵本)
 古典絵本の復刻版。作者が3歳の息子のために書いたというだけあって、まさに3歳の子ども達が楽しめるであろう絵本です。と書いたものの、楽しむか、怖がるかは子どもの性格によるように思います。時代背景、社会的背景があるのでしょうか、物語ではなく、小さな子ども達への教訓の本です。こども達にとって、ぜひともやってみたい魅惑的なことが次々と揚げられており、この絵本で仮想体験することにより、欲求を満足させることもできそうです。
 しかし、見ようによっては怖いです。火遊びして全身が燃えてしまう女の子や、題名にもなっている1年も髪の毛や爪を切らなかったペーター、彼らを見たら絶対に火遊びもしたくないし、爪もちゃんと切りますよね!

 グリム童話 おどる12人のおひめさま 選者S
絵/エロール・ル・カイン 訳/やがわすみこ (ほるぷ出版)
 西洋の細やかで色鮮やかな絵は、見ているだけで楽しめます。だいたいおひめさまが12人もいるのですから、靴やベッドなど、ページをめくるたびに思わず数えてしまいます。

 ハーメルンの笛ふき 選者S
文/サラ&ステファン・コリン 絵/エロール・ル・カイン
訳/かなせきひさお (ほるぷ出版)
 こちらも上と同じエロール・ル・カインの絵です。

ジャンヌ・ダルク 選者S
作/M・ブーテ・ド・モンヴェル 訳/やがわすみこ(ほるぷ出版)
 最近、オルレアンの少女、ドラクロアの絵などが話題にあがっていたので借りてきました。作者のモンヴェルはオルレアンに生まれ育ったため、自らの生涯懸けてのテーマとして取り組んだ作品だそうです。
 この絵本を読むと、それまで単なる歴史に登場する人だったジャンヌを、一人の少女としてとらえることができます。彼女の晩年の苦しみは身につまされます。
 戦いの是非、民族の善悪、宗教の正誤、それらについては安易に判断せず、当時の時代背景を読むことが必要だと思います。

いちばん美しいクモの巣 選者S
作/アーシュラ・K・ル=グウィン 絵/ジェイムズ・ブランスマン
訳/長田弘 (みすず書房)
 手にとってパラパラめくっていた息子は、タペストリーの絵を見てこれってクモの巣? あ、これだ。雨が降った後のクモの巣。これがいちばん美しいクモの巣だ。読む前に絵だけで完璧に理解してしまったようでした。それでも「早く読みたいな」と楽しみにしていました。息子はだいたいはじめに知っていたい性格です。娘は読んでからのお楽しみにとっておきたいので、はじめに言われるとすごくいやがります。

アンデルセン童話4 絵のない絵本 選者S
絵/娘・スパング・オルセン 訳/大塚勇三 (福音館書店)
 ママ、アンデルセンっておもしろい? とたずねた娘。たぶん彼女にはおもしろくないのでしょう。かくいう私も、アンデルセンのお話は、感傷にひたる自己愛の強い男性像がどうしても頭に浮かんでしまい、いくら好意的に読もうとしても、どうしたって虫が好かないのです。

ハリー・ポッターと炎のゴブレット 上・下 S
作/J.K.ローリング 訳/松岡佑子 (静山社)
 「もうー! 気になる。どうしてこれって字を太くしたり変な字にしたりしてあるわけ? すごく嫌。気になって気になってしょうがない。なんとかなんないかな。これ、誰がやっているのかな。訳した人? よけいなお世話だよ。もうっ!」本にむかってイライラ叫んでいる娘です。なるほど。そうかもしれないね。
 実は私も読んでいてストレスが大きい本です。展開の不自然さにあわせて、登場人物一人一人の深層心理の動きが浅薄で魅力がない。また、もしかしたら作者は今までの人生で欺かれ、虐げられてきたのでしょうか。主人公や弱者に対する残虐で執拗な欺きが次から次へと現れて、私はとても苦しくなる。グリム童話だって残虐な部分はあるけれど、それは主人公の成長や幸せに欠かせないものだった。一方でハリー・ポッターでの残虐さは、主人公と一体化して読んでいる私たちに苦しみと、放心状態を与えるだけだ。それを乗り越え、食いしばり、読んでいけば、弱虫の私でも打たれ強くなるのかしら。作者は、この物語を書くことにより、読者に対して、人生の仕返しをはかっているのではないかしら...などと考えてしまいました。それでも映像描写に優れていて、視覚的に物語りが進むためか、先へ先へと読ませられるのは確かです。

それいけズッコケ三人組・ズッコケ宇宙大旅行
ズッコケ山賊修行中
 選者R
作/那須正幹 原画/前川かずお 作画/高橋信也 (ポプラ社)
 読もうと思うとすぐに返されてしまい、なかなか手にできなかったズッコケシリーズ。念願かなってようやく読むことができました。私が読んだのは山賊修行中。なるほどRickがはまっているのがわかる気がしました。ごく普通の少年達が、思いもよらぬ冒険に巻き込まれ、悩み、考え、危機を乗り越え、もとの世界へ戻ってきます。そこではなんの変哲もない平凡な生活が待っている安心感。このシリーズ、Rickがはまっている間に、私もあと何冊かお相伴にあずかりましょう。

ダイノトピア-恐竜国漂流記 選者R
作/ジェームス・ガーニー 訳/沢近十九一 (フレーベル館)
 恐竜とともに暮らす人々の島へ流れ着いた人が書いた日記という設定の絵本。絵や装丁がとても立派で、まるで恐竜図鑑のようです。おもしろい! と飛びついた息子でしたが、残念ながら文章はそれほど読ませるものではなかったようで、我が家で最後まで読み切った者は一人もいませんでした。

ドリトル先生アフリカゆき・ドリトル先生の郵便局 選者R
作/ロフティング 訳/井伏鱒二 (岩波書店)
 息子は相変わらずドリトル先生シリーズにはまっています。最近はよく「ポリネシアに動物語を習いたいなぁ。」などとつぶやいています。

りすのパナシ 選者R
作/フォシェ 絵/ロジャンコフスキー
訳/いしいももこ・わだゆういち (福音館書店)
 おもしろかったよ(息子談)。

ことわざ絵本 選者R
五味太郎 (岩崎書店)
 食後の我が家でひととき流行った「ことわざ勝負」。それ以来何かとことわざを使う息子です。しかし、「いやとかぶりを縦に振る」などと8歳の男の子が言うのはどうかと思うのですが...。

3年生のきょうりゅうたんけん隊
4年生のきょうりゅうたんけん隊
 選者R
作/たかし・よいち 絵/小泉澄夫 (理論社)
 これはシリーズもので、学年に応じたきょうりゅうたんけん隊があります。息子はシリーズものをひとたび読み始めると端から制覇していきます。これも1年生からずっと読み続けているようです。

ジョン・ギルピンのゆかいなお話 選者S
文/ウィリアム・クーパー 絵/ランドルフ・コルデコット
訳/よしだしんいち (ほるぷ出版)
 この本は古典です。元祖どたばたものとでもいいましょうか..。
 「よく読めばわかるのかもしれないけれど、よくわからなかった。(娘談)」たしかに、食いしん坊の我が家のメンバーには、難しい本です。なぜなら、レストランに行く予定だったジョン・ギルピンは、どうやらレストランで食事をしそこねたようなのです。私達としては、どんなことがあろうとも、ちゃんと食事をしてくれないと納得いかないのです。

野生犬ドール 選者E
作/マイクル・フォックス 訳/藤原英司 絵/加藤孝雄 (国土社)
 「何が大切かを知った人は、そのために働かなければならない。」という最後の一文は、やわらかな娘の心に一撃を食らわしたのではないだろうか。少しずつ、今ではない未来、将来の存在に気がつき始めた小5の、勉強もスポーツも音楽的センスも??だし、ものごとの理解力や自己表現に関しては絶望的ではあるけれど、感受性だけは人一倍もっています。一撃を浴びたからといって何が変わるわけでもないけれど、さてどんな人生を送ることやら楽しみです。
 野生に生きる動物の生活を観察して書かれているこの手の本を、
は毎回借りてきます。オオカミ、コヨーテなど家族とともに群れをつくる彼らの生活は、彼女に大きな魅力と安心感を与えるように思います。幼少時(3〜6歳頃)、彼女が何度も借りて読んでいた「ねこのオーランドー」、こちらは擬人的なねこの家族のごく平凡な生活が描かれた本でした。成長とともに借りる本は変わりましたが、彼女が求めているものは決して変わることがありません。日常の家族の生活、安定した群れの関係、そういったものを強く求めています。身につまされる思いです。

白鳥とくらした子 選者E
作/シシリー・メアリー・バーカー 訳/小泉澄夫八木田宜子 (徳間書店)
 今月一番のお勧め。草花への愛情溢れる妖精画で有名なバーカーさんならではの作品です。小さな少女が、やわらかで大きな白鳥に育まれる安心感、そして後に大きくなった少女が地に足をつけて堂々と立っている姿、大きな勇気をもらうことができる一冊です。

ニーノック・ライズ 魔物のすむ山 選者E
作・絵/ナタリー・バビット 訳/田中まや (評論社)
 表紙にある細かなペン画による山の絵は、いかにも何かが起こりそうでワクワクさせられます。どうしたって事実を知りたい時期、事実こそが大切だと考える時期にある少年と伝説を信じて魔物の住む山の麓に住む人々の交流は、ちぐはぐなようでいてとても暖かい。少年は大人になったとき、自分の子供達に魔物の住む山に本当にいるものを証すのだろうか。

ともだちは海のにおい きみとぼくの本 選者E
作/工藤直子 絵/長新太 (理論社)
 これ、のはらうたの人だよね。前に借りた「ともだちは緑のにおい」と似てるよね(娘談)。『海のにおい』はくじらといるか、『緑のにおい』はライオンとロバとカタツムリという特徴あるキャラクターが登場します。
 この手の児童書は、もともと大人向けに書かれているのではないだろうか。のんびりとゆるやかな海の時の流れを楽しめるので、時間に追われて疲れ果てた大人には、きっと大きな癒し効果があると思います。手元においておきたいと思える一冊。

なん者ひなた丸ねことんの術の巻 選者E
作/斉藤洋 絵/大沢幸子(あかね書房)
 斉藤洋さんの文章には独特の言い回しがあって、少しならばおもしろいけれど、何度か続くとちょっとうるさい。それでもリズミカルでテンポのよい話の展開に、あっという間にとりこまれ、楽しんでいる自分に気づきます。にんじゃになる前はなんじゃ、にんじゃを極めるとぬんじゃ、いかにも斉藤さんらしい設定ですね。
 主人公のなん者ひなた丸は、殿様の命令でとなりの国に「すごくものすごいにんじゃ」の偵察に出ます。果たしてその正体は...!?
 長いかなと思ったけれど短かった。すぐ終わっちゃった(息子談)。おもしろかったページを何度も声に出して読み返しては大笑いしていました。

ベンガル虎の少年は...... 選者E
作/斉藤洋 絵/伊東寛(あかね書房)
 少年には名前がまだない。ベンガル虎の風習で、少年は名前をもらう前に長い旅に出なければならない。その旅で、少年は異国の様々な考え方、物事のとらえ方に出会います。上で紹介した『なん者ひなた丸...』と同様で、少年が狭い世界から一歩外へ踏み出し、それまでの常識とは違う世界を知る様子を描いています。

ベンガルトラの森へ
-バングラデシュ旅ものがたり-
 選者E
作/門田修 絵/出雲公三(理論社)
 同じベンガルトラの物語でも、こちらは上のファンタジーとはずいぶん異なります。絶滅の危機にあるベンガルトラと人間との共生について、作者自身がバングラデシュで体験したこと、話に聞いたことを元に、一人の少女を主人公にして物語っています。自然保護に対する考えに、ひとつの「こうである」という回答はないと考える作者は、様々な立場の人々が、各の考えを述べ、行動している様子を物語りの中で生き生きと描いています。
 小5の
が読むのに、ちょうどいい時期だったように思います。