水巴「白日」鑑賞
 
水巴を読んで
村上鬼城を読み、水巴を読んで「風土」ということを改めて感じた。鬼城の自然、田舎的に対し、水巴の都会的な感覚。関西人はまず「まからんか?」と胸を張って値切るといわれる。それに対し関東の人はシャイでダンディ。特に水巴の句から、江戸気質というか、それもかなり頑固な、ともすれば冷たいような大人の成熟さを感じた。あからさまな表現をさけながら、じわじわとにじみ出すような余韻を漂わせている句が多い。それが俳句の醍醐味なのだろう。いつも言い過ぎてしまう自分の句を反省。
気になったのは、かなりの句で季重なりがあったこと。昔は、季重なりをそんなに気にしなかったのか。
好きな句をランダムにあげました。

菊人形たましひのなき匂ひかな ◎
光こめて深くも裂けし柘榴かな 
葬儀社に鉋の音す霜夜かな ◎
スタンドの燈は何さそふ雪夜なる
ぱり/\と霊柩車行く氷かな
マッチ擦れば焔うるはし閑古鳥
さみだれや襦袢をしぼる岩魚捕り
風の音は山のまぼろしちんちろりん
落暉望んで男ばかりや尾花照る
笹鳴を覗く子と待つ雑煮かな
ほんの少し家賃下りぬ蜆汁 ◎
行春やうしろ向けても京人形 ◎
風鈴や選句に占めし梯子段
包み紙たヽみつ仰ぐ牡丹かな
一つ籠になきがら照らす螢かな ◎
月の虫鉦を叩いて穴に
夜を凍てヽ薄色褪せずさくら餅
三日月に誓ふて交すげんげかな ◎
顔も膝も蔦の羅漢や夏近き
うしろむいて秋の姿の鹿の子かな
かろ/\と帰る葬具の寒さかな
ポストから玩具出さうな夜の雪 ◎
行李に秘めし位牌取り出す月見かな
天渺々笑ひたくなりし花野かな ◎
大空のしぐれ匂ふや百舌鳥の贄
山茶花の垣に挿し過ぐ落穂かな
初夢もなく穿く足袋の裏白し ◎
茶を焙る我と夜明けし雛かな
屋根瓦ずれ落ちんとして午睡かな
妹瓜を揉むま独りの月夜かな
筍の光放つてむかれたり ◎
どれも/\寂しう光る小蕪かな
霊膳の湯気の細さや夜の雪
凍てし髪の綿屑知らで夕餉かな
除夜の畳拭くやいのちのしみばかり ◎
春寒く咳入る人形遣かな
しぐるヽやなむごろに包む小杯
冬山やどこまで登る郵便夫 ◎
釣り上げし鱸にうごく大気かな

最後に気になった事。妹の句が多く、兄妹仲が良かったのだろう。
幼な顔の兄妹よ涼充ちきたり
妹よ二人の朝の初鴉
私生活の事で申し訳ないが、あまり妹との仲が良すぎて、奥さんがやきもちを焼いたのではないだろうか。妹と妻が言い争いでもすれば、水巴は、妹の肩を持ったようなそんな感じがしてならない。
妻も来よ一つ涼みの露の音
これも、妻も、とあるから、水巴の横にはすでに妹がいたような取り方もできる。
別るヽやいづこに住むも月の人
で、結局離婚。
泳ぐ友の妖しく青し春暮るヽ
水巴の句はすごいと思うけど、田舎者の私としては、… 鬼城が好き。
 

渡辺水巴「白日」

俳句館へもどる

ホーム