高浜虚子句集
 
三椒の推薦の佳句好句。よんでアトランダムに集めたもの。
 
 

元朝の氷すてたり手水鉢      治31年
稲塚にしばしもたれて旅悲し    明治32
遠山に日の当りたる枯野かな    明治33
ほろ  と泣き合ふ尼や山葵漬   明治37
うき巣みて事足りぬれば漕ぎかへる 明治38
芳草や黒き烏も濃紫        明治39
桐一葉日当たりながら落ちにけり  明治39
黄亀子擲つ闇の深さかな      明治41
死神を蹴る力無き蒲団かな     大正 2
春風や闘志いだきて丘に立つ    大正 2
鎌倉を驚かしたる余寒あり     大正 3
葡萄の種吐き出して事を決しけり  大正 3
太腹の垂れてもの食ふ裸かな    大正 4
蛇逃げて我を見し眼の草に残る   大正 6
昼寝せる妻も叱らず小商      大正 8
どかと解く夏帯に句を書けとこそ  大正 9
風鈴に大きな月のかかりけり    大正13
白牡丹といふといへども紅ほのか  大正14
かりに着る女の羽織玉子酒     大正15
たまるに任せ落つるに任す屋根落葉 大正15
此方へと法の御山のみちおしへ   昭和 2
東山静に羽子の舞ひ落ちぬ     昭和 2
流れ行く大根の葉の早さかな    昭和 3
此村を出でばやと思ふ畦を焼く   昭和 4
炎天の空美しや高野山       昭和 5
蜘蛛打って暫心静まらず      昭和 5
せはしげに叩く木魚や雪の寺    昭和 6
火の山の裾に夏帽振る別れ     昭和 6
水仙や表紙とれたる古言海     昭和 7
春の浜大いなる輪が画いてある   昭和 7
遅月の上がりて暇申しけり     昭和 7
襟巻の狐の顔は別に在り      昭和 8
凍蝶の己が魂追うて飛ぶ      昭和 8
神にませばまこと美はし那智の滝  昭和 8
浴衣着て少女の乳房高からず    昭和 8
物指で背かくことも日短      昭和 8
事務多忙頭を上げて春惜む     昭和 9
玉虫の光残して飛びにけり     昭和 9
大いなるものが過ぎ行く野分かな  昭和 9
一を知って二を知らぬなり卒業す  昭和10
秋篠はげんげの畦に仏かな     昭和10
吹きつけて痩せたる人や夏羽織   昭和10
大空に羽子の白妙とどまれり    昭和10
稲妻のするスマトラを左舷に見   昭和11
春の寺パイプオルガン鳴り渡る   昭和11
スコールの波窪まして進み来る   昭和11
上海の梅雨懐かしく上陸す     昭和11
たとふれば独楽のはぢける如くなり 昭和12
玉虫の光を引きて飛びにけり    昭和12
這ひよれる子に肌脱ぎの乳房あり  昭和12
泳ぎ子の潮たれながら物捜す    昭和12
此谷を一人守れる案山子かな    昭和12
落花生喰ひつゝ読むや罪と罰    昭和12
焚火かなし消えんとすれば育てられ 昭和13
ついて来る人を感じて長閑なり   昭和14
手毬唄かなしきことをうつくしく  昭和14
福寿草遺産といふは蔵書のみ    昭和15
寒真中高々として産れし声     昭和15
万才のうしろ姿も恵方道      昭和15
春眠の一句はぐくみつゝありぬ   昭和15
よろよろと竿がのぼりて柿挟む   昭和15
昼寝覚め又大陸の旅つづく     昭和16
美しき眉をひそめて朝寝かな    昭和17
顔そむけ出づる内儀や溝浚     昭和17
鈴虫を聴く庭下駄の揃へあり    昭和17
悲しさはいつも酒気ある夜学の師  昭和17
着倒れの京の祭を見に来たり    昭和18
炭を挽く静かな音のありにけり   昭和18
敵といふもの今は無し秋の月    昭和20
秋灯や夫婦互いに無き如く     昭和21
裸子をひっさげ歩く温泉の廊下   昭和21
二行書き一行消すや寒灯下     昭和22
茎右往左往菓子器のさくらんぼ   昭和22
流れ星悲しと言ひし女かな     昭和22
蝉取の網過ぎてゆく塀の外     昭和22
念力のゆるみし小春日和かな    昭和22
短日の出発前の小句会       昭和24
手で顔を撫づれば鼻の冷たさよ   昭和24
朝顔や政治のことはわからざる   昭和25
月の庭ふだん気附かぬもの見えて  昭和25
彼一語我一語秋深みかも      昭和25
此頃の吉原知らず酉の市      昭和25
熱燗に泣きをる上戸ほっておけ   昭和25
羽子つこか手毬つこかともてなしぬ 昭和26
一匹の蠅一本の蠅叩        昭和29
すぐ来いといふ子規の夢明易き   昭和29
数の子に老の歯茎を鳴らしけり   昭和29
去年今年一時か半か一つ打つ    昭和30
例の如く草田男年賀二日夜     昭和31
牡丹の一弁落ちぬ俳諧史      昭和31
行春やおもちゃに交る黄楊の櫛   明治28
犢鼻褌を干す物干しの月見かな   明治29
ワガハイノカイミヨウモナキススキカナ 明治41
これよりは恋や事業や水温む    大正 5
とめどなき涙の果ての昼寝かな   大正13
素十抱き富士子受取る菖蒲の子   昭和11
妻長女三女それぞれ啼く千鳥    昭和21
福は内鬼は外なる手紙来る     昭和22
祖母立子声麗らかに子守唄     昭和29
地球一万余回転冬日にこにこ    昭和29

虚子感想文

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