草加松原
 ● ぼくの細道
  「クックゥ、クッコゥ。人間てすごいよね。針小棒大のすさまじさ」     「クックック。何のことだい?」

 「だからさ、何百年も昔、芭蕉って人が、チロッと一言、触れただけなのに、ご覧よ、あの石碑。日本の道百選て書いてあるだろ?」
 「うん、すごいじゃないか、ここいらを塒にしている俺たちも鼻が高いってもんだ」 
  「いやさ、もともとありもしないものをでっち上げてまるで日光街道の代表的な場所みたいに売り込んでる。それがすごいってのよ」     「ありもしないものって、なんだい?」 

  「クォッコ、たとえばあの橋さ。矢立橋と百代橋。いかにもその昔、こんな橋があったかのようなつくりだけど、これはお役所が観光開発で作り出したただの歩道橋なんだよね」
  「でもいい橋じゃないか。普通の歩道橋じゃ、登下校の小学生くらいしか渡らないけど、この歩道橋は、みんな楽しんで渡ってる……」

 
 「うん。だから文句を言ってるんじゃない。人間てすごい、って言ってるんだ」
 
 「そういわれりゃそうだね。この橋から見る松並木は見事なもんだからね」  

   「うちの爺っちゃんに聞いたんだけど、むかし、大名行列がここを通るときは、鳥も人も、わざわざ集まったんだってさ。そりゃもうきらびやかで、絵に描いたような風景だったってさ」
   「じゃ、芭蕉も満足したろうに」
  「いや、そのころは松原はなかったんだと。後に、ここの領主様が、ここを通る諸大名に自慢したくて作り上げたらしいよ」   「クククク。なんでもでっち上げちゃうんだね、この辺の人は」

 
 「それをいうなら知恵がある、と言って欲しいね。クェッコウ」
 
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