2008年4月8日(火)  「偶然だぞ」

センバツ高校野球、日本のプロ野球、メジャーリーグと野球好きにはたまらない季節が始まった。野球は見るよりやる方がずっとおもしろい。そう思いながら、ついついTVを見てしまう。

日本のプロ野球に関心がなくなって10年以上になる。メジャーベースボールという、もっとおもしろい野球を知ってしまったからだ。野茂がメジャーに行ったのが契機になった。彼が投げる試合はすべて見た。深夜でも、早朝の放送でもくじけなかった。
腕を痛め手術をして、2年ほど下部リーグで冷や飯を食っていた野茂が、最近になって再度メジャーに昇格した。40歳。その年で野球を続けるプロ野球の選手は、横浜の工藤(44歳)とロッテの小宮山(42歳)くらいだ。日本よりもずっとレベルが高いメジャーで、まだ野球を続けている。しかも一番肉体を酷使する投手である。その強靭な肉体と精神には驚くばかりだ。真似が出来る日本人はいない。したくても出来ない。
野茂が好きだった。そしていっそう好きになった。あの無骨さを、無駄口を叩かず結果を残す姿を、へらへらした日本人は見習うべきだといつも思う。

去年まで中日だった福留は、今年からメジャーに移籍したが、4年契約の年俸総額がが53億円には驚いた。一年で13億円という年俸に見合う活躍ができるのだろうか。ところがそんな思いを払拭し、シカゴ・カブスで大活躍している。メジャー最初の試合で3打数3安打3打点、ホームランまで打ったというから、目が飛び出そうになった。ぼく以上に驚いているのは、シカゴの人たちだ。アメリカの新聞では、オバマ並みの人気だという。オバマとは大統領の予備選挙で旋風を巻き起こしているあのオバマだ。オバマの地元シカゴは、二人の話題でフイーバーしているらしい。
「福留 華々しく 開幕3ラン」
毎日新聞のスポーツ欄でもこんな見出しで大きく報じていた。ところがその記事の下に、歓喜する人々のなかで日本語のボードを頭の上に持つアメリカ人の写真があった。
「偶然だぞ」
9回に同点となる3ランホームランを打った福留の活躍をねたみ、忌々しく思った相手チームのファンがそんなボードを掲げているのだろう思った。しかしどうもおかしい。新聞記事を読んでぼくはたまげた。そのボードを掲げているのはカブスファンだというのだ。でもカブスファンがなぜ応援するチームの福留に、そんな言葉を投げかけるのか?

それは日本語を知らないアメリカ人が、福留を応援するために日本語のボードをつくろうと思い立ち、英文をウェブで翻訳したら、「偶然だぞ」になってしまったらしい。ボードの裏側には元の英文が書いてあったという。
「 It's gonna happen 」
これはアメリカ人が期待を込めるときに使うフレーズらしく、つまり「何かが起きるぞ。起きそうだ」「来るぞ、来るぞ」というような意味なのだという。カブスファンは、まさに何かを起こしてくれそうな福留の活躍に対して、何の疑いもなく「偶然だぞ」を頭の上に掲げて大喜びしていたのだ。しかも同じボードを少なくとも3人が持っていた。
それにしても翻訳ソフトでは本当にこんな日本語になるのだろうか、と実際に試してみた。
exciteとLivedoorでは「それは起こるでしょう」となった。他人ごとみたいで迫力がない。楽天のInfoseekでは「それは、起こりそうです」と教科書的で、つまらなかった。そしてgoogleでは確かに「偶然だぞ」となったから、思わず声を上げて笑った。さすが翻訳ソフトだ。

事態が飲み込めたのは、後日、スポーツ専門のNumber webの次の記事(文章、李啓充さん)を読んだときだった。
「ところで、この「It's Gonna Happen」というスローガンがカブス・ファンの間で広く使われるようになったのは、昨季後半戦のことだった。昨季のカブスは、6月1日時点で首位に7.5ゲーム差の地区4位(借金8)と大きく出遅れたが、快進撃を始めるきっかけとなったのは、6月2日、ルー・ピネラ監督が退場覚悟の「猛抗議」でチームの闘志に火をつけたことだった。カブスは、最終的に地区優勝を飾ったが、スポーツ・イラストレイテッド誌(7月30日号)が、6・7月の快進撃を伝えた際、記事に「It's Gonna Happen」とタイトルをつけたことで、このスローガンが一挙にファンの間に普及したのだった。ちなみに、「It's Gonna Happen」の「It」が「99年ぶりのワールドシリーズ優勝」を意味したのは言うまでもない。」
ファンは今年もそのスローガンを使い続けているのだ。というのも、今年カブスがワールドシリーズに優勝すれば100年振りの快挙となるからだ。シカゴの人たちはそれを待ち望み、ゴールデン・ルーキーの福留に大きな期待をかけているというわけだ。53億円も払うのだから当然だ。



今年になってから軍艦島についてのメールが海外から何通も届いた。写真を使わせてほしい。島に渡りたい。ほとんどがそんな内容だ。3月初めにフランス人から届いた日本語のメールはこうだった。

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前書きとして片言の本メルは誤解を引き起こす可能があるのでごめんなさいと申し上げます。
最来週に特別にフランスからきた友人と一緒に端島に訪問したかったと思いました。工業荒土(荒野?)の写真に特別な興味がある。あなたの経験と作品を拝見して私達に当たり前の模範に致しました。その島に行けるのは大願になりました。あなたのお陰でとお勧めでそれを実施したらまことに大助かりでございます。そのためにはすべての準備品を買った。欠点の一つだけは端島の渡し手段をめぐってもっと知りたいと思いました。今の計画のとおりに長崎に行ってその町の港の漁師に聞いて端島に行く船を探す予定ですけど。
もしその点にてお勧めあれば本当によろしくです。

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「どうしても、ここまで読んで有難うございます。お返事を期待いたします。」

最後はこう結ばれていた。こういうメールには返事を一切出さないのだけれど、日本語と英語を併記した返事を出した。あまりのメールなのだが、気持ちが充分に伝わったからだ。
「・・・。端島には行けません。もし渡れば不法侵入となり、見つかれば処罰されます。渡す船も処罰されますから、渡してくれる船はありません。ぼくも最近は島に行くことができません。・・・。」

今頃になって、ぼくの英文メールを不安に思う。「偶然だぞ」のようなとんでもない間違いはないとしても、これまで意味不明の文章をまき散らさなかったという保証はない。今回は
いっそのこと、このフランス人がやったであろう翻訳ソフトの訳文をそのまま送れば良かった。ヘボなぼくの英語より、よっぽど気が利いている気がする。



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