夕 景



何事もなく終わる一日
それは
とてもささやかな幸福


空の青は透けるように薄まり
西の端に淡い橙が滲む


陽射しを離れた風が
ひんやりと漂いだす


振り仰げば
明るさを残す中天に浮く月は
まだ白い欠片のよう


けれど
黄昏はよどむことなく
刻々と姿を変えて行く


瞬く間に降りてくる
夜の気配に後押しされて
月はそろりと
本来の色を取り戻し始める


光と影
どこからともわからない
あやふやな境界の時


帰路に着く人も
待つ人も
まだ帰れずにいる人も


ふと足を止め
まなざしを巡らせて


やわらかな夕景に
しばし見入るだろうか


なんて静かな
なんて穏やかな


いつもと変わらない
ありふれた一日だったとしても


このひととき


暮れ行く空を
美しいと仰げたなら


胸の奥にほんのりと
満ち足りた思いが
すべり込んで来たなら


それはきっと
幸せなこと


ささやかな感謝は
ささやかな日常から生まれる


繰り返し迎える季節の中
数えきれないほどの夕景


何事もなく終わる一日の
つつましいセレモニーに


今日も出会えたことを
心の日記にそっと綴ろう


ありがとう、と

(壁紙素材)