夢 凪 それは とても 静かな海でした ゆったりとした 淡緑の水の広がり かすかに 息づくような 波のよせ返し 湿った砂の上に 佇んで さっきからずっと 飽かずに 眺めています 水平線をよぎる 船影の なんて微々たる動き 時を運ぶ風は どこへ行ったのか きらきらと 光のうろこが 海面に踊るたび あなたは 小さく 感嘆をもらすのです ああ きれいだ と わたしは ただ黙って頷くだけ あなたの声は 低くおだやかに 空気にとけ まるで ひとりごとのようだから わたしの言葉は 波立つ想いを孕んで うっかりと あなたを 振り向かせて しまいそうだから どうか そのまま 目の前の美しい様を みつめていて下さい わたしは こころの両手を そっとひろげて あなたの うしろ姿ごと この静かな海を 包み込んでいたいのです |
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