夕風



少し風がほしくなって


暮れかかる海に向かって
窓を開いてみる


待っていたように
するりと入り込む
夕焼けの匂いを含んだ空気


ゆるやかに


海は
色を落としながら凪いで行く


星は
その身に光を蓄えはじめる


肩に乗っていた
一日分のため息の重さを


さあ
降ろしてごらんと


誘う風
たゆたう風


海を渡ってくる
軽やかな放浪者


こともなげに
すり抜けるたび
昼間の熱気を
さらって行く


夜の気配は
なんてゆっくりと
降りてくるのだろう


そんな思いに
ぼんやりと頬杖つきながら
                          

もう しばらく
窓は開けておこう

                                                      
少しずつ濃度を増す
宵闇のとばりに
水平線が
まぎれるまで

                         
忙しさに
火照ったこころを


やわらかな夕風が
すっかり冷ましてくれるまで