薫    風



幾億もの桜の花びらが
静かに大地に帰るころ


樹々は
あふれんばかりの緑に
おおいつくされる


翡翠の深みも
エメラルドの透明さも
かなわない


空気さえも
薫りたつような緑


あざやかに
やわらかに
目をひきつけてやまない
色彩の森


葉擦れの音は
まるで
ささやくヴァイオリン


光に透かされ
ざわざわ鼓動のように息づく
生まれたての宝石たち


わたしは
風になって
おまえたちに触れてみたい


その美しい色に染められ
くすくす笑いのような小さなキスを
頬に受けとめてみたい