ワ イ ン



しめやかな薄闇をまとい
約束のない時の流れに横たわり


ひっそり息づく
ゆっくり丸くなって行く


薔薇色の羊水の中で
眠りについている
数知れない葡萄の精たち


緑なす棚の下で
風に吹かれていたのは
いつのこと?


もうずいぶん前から
私はここで眠っています
深くなる香りに包まれて
うとうと うとうと


ふいに波立つ水面


誰かの手が
ボトルを選び取った


運ばれて行く
やさしい手にゆだねられて


どこへ?


ゆっくりと
コルクの天上が
高くなって行き


ポンと
軽やかな音と共に
突然 空は広がる


閉じ込められていた香りは
いっせいに流れ出して
空気と甘くまじりあう


くすくす笑い


私はボトルの中で
ゆらゆら さざなみに酔う


あ、傾く


まるですべり台から
飛び出す子供みたい


どきどき


磨かれたグラスの感触
なつかしくて新しい世界


私は泡のように
ふぅっ浮いて


香りをまとったまま
軽やかに
空気の合間を駆け巡る


こんにちは


あなたが
眠りを覚ましてくれたのね



<壁紙素材>