この詩は千華さんへ
感謝をこめて。

映画『英雄(HERO)』より


黒衣の剣士

〜 無名 〜


鍛えられた鋼のような
その身を包むのは
漆黒の衣


乱れなく結い上げられた髪
額にきりりと黒き鉢巻


宮殿への石畳を
一歩一歩進む
足取りの確かさ


凛然たる後ろ姿は
いかなる視線も
いかなる思惑も


称賛も疑念をも
寄せつけず


ただ静かなり


黒は秦国の色
黒は無限の色


情熱の赤も
理想の青も
真実の白も


その懐に呑み込み
押し包む


闇の如き衣の中で
君は何を思うのか


携えてきた
三つの箱


戦った相手の武器こそ
紛うことなき勝利の証し


銀の槍は
流麗にして力強き
第一の刺客


細身の剣は
あでやかにして激しき
第二の刺客


そして
重厚なる剣は
奥義の心を知る
第三の刺客


目の前の
もの言わぬ武器たちに
託された思いの数々は


君に
どのような決意を促すのか


がらんどうの宮殿内に響く
功績を読み上げる声
山と摘まれる褒美


秦王までの距離は
わずか10歩


鎧を身につけた
威風堂々たる姿
叡智の閃くまなざし


これが
まさに七国の頂点に
君臨せんとする
強大なる王か


二人を隔てるは
整然と並ぶ
蝋燭の焔のみ


王の問いかけに
どう答えるかも
君の胸のうち次第



すべての者の運命は
その手に委ねられる


意のままに進め!


迷うな!


熟考せよ!


こころの内に木霊する
三つの声


答えるべきは
どの声に対してか


彫像を思わす横顔から
読み取れるものはなし


深く強く
根ざす信念は
いかなるものか


長き時を経て
苦しき葛藤を超えて
君が辿り着いた境地は何か


つと上げる
静謐な視線


蝋燭の焔が


揺れる
揺れる


揺れる


大いなる歴史が
動き出す


ここに在るは
漆黒の衣を纏いし


ひとりの英雄


(BGM 映画『英雄』より)


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