水   仙



部屋の中に
つと流れるように
花が香る


それは
たった今
手折ってきたばかりの水仙


冷たい風に
背を向けるより


正面から
まっすぐ受け止める方が
耐えることができるのだと


誰に教わるでもなく
誰に気負うでもなく


静かな様で
咲いていた水仙


冬はとても厳しくて
寒さも雨も風も
小さな花に容赦はしてくれない


何かにからみつき頼れるような
蔓も持たず


ただ細くかよわい茎で
立っているだけ


いくどかの雨
いくどかの風に
揺れながらも
じっと耐えていたのに


ついに力つき
倒れてしまったいくつかの花


一度倒れたら
もう起きあがることはできなくて


ひっそりとうなだれている


ずっと大地に
咲かせてあげたかった


自然のまま
枯れさせてあげたかったけれど


ぽっきりと折れた茎が
とても痛々しくて


白い可憐な花が
土に汚れてしまうのが哀しくて


やっぱり
部屋の中へ連れてきてしまった


花瓶からすっと顔を上げ
咲いている


つつましく気高く
けして媚びないその香り


今までも
そして今も


あなたはとても
ひたむきに生きているから


もうしばらく


その凛とした姿を
愛でさせてください


小さな勇気を分けてください


(壁紙 PIPOさん)
『吹く風と草花と』