すいかずら
月はおぼろ
緑濃き闇の中
ほの白く
すいかずらの花
風に遊ぶ香り
気紛れな精霊のように
わたしを惑わす
のばした指先を
ついとかすめて
どこへ?
形なきものを
追い求めれば
答える声は
いつも 同じ
この手に曖昧なるもの
それは夢、と
辿りつけない岸辺に
焦がれる夜
花の気配に寄り添い
わたしは思いめぐらす
光のもとでは
気づけなかった
さまざまなことを
濃く薄く
流れ来ては
離れ行く香り
この手に絡めとれなくとも
それは
たしかに存在するから
不確かな未来に
怯えるよりも
からっぽの掌の
虚しさを嘆くよりも
せめて今は
甘やかな香りがもたらす
ささやかな幻を
儚いまま
かき消えるものへの愛しさを
そっと
胸に閉じ込めよう
微笑みながら
月はおぼろ
星の光も
射さない夜
すいかずら咲く路を
そぞろに
ひとり