桜陽炎

〜Sakura kagerou〜


夜目に浮かぶ
仄白き


雲の羽衣
まとうように


たわわなる枝
差し伸べて


そよと誘うは
爛漫の幻


闇をうすめて
綾なす花びら


空を覆い
月を透かし


はるけき記憶の
帳(とばり)の中へと
  

この身を包み
手繰り寄す


帰れ


帰れ
遠き春へ


淡く咲き初め
歓喜にざわめき
風にたゆたい
雨にうつむく


やさしき肩越し
揺れる薄紅


爪先立ちで
みつめつつ


散らぬを願い
叶わぬを知り


やがて迎える
刹那の花舞い


雪と欺き
空に震え


大地を覆う
終焉の鮮やかさ


この手を
すり抜け行くものを


なすすべもなく
見送った


遠き春
遠き涙


せめて束の間
花のまやかしに


時が巻き戻るのなら
どうか


愛しい面影ごと
この樹の下にと


儚き願いを
かけてもみようか


ふりむけば
しんと重たげな
花の気配のみ


それでもなお


夢に醒めては
覚めるを拒み


巡りし春に
君を想う


幾度も
幾度も
君に惑う


ああ
なつかしきかな


あの日のままの
花闇を訪ね
                           

彼方の枝に
呼びかけたなら


ほんのり
白い立ち姿
                          
    
花びらを置く
その腕に
ひととき委ねて
微笑もうか
                     

さくらさくら
桜陽炎
 

ただひたぶるに
想い宿して





(壁紙素材)