蓮   華



ひっそりと
いのちの根は闇に眠る


黒く湿った泥海に
温められ育まれ


ただ巡り来る時を待つ


やがて
大気の恵みを
てのひらいっぱい受けるように


葉は次々と空に向かい
いつしか泥海を覆い隠し


つと
伸び来るであろう
細い茎を


その先の
ふくよかなつぼみを待ちうけて
一面緑の波となす


思えば
花はみな不思議


土から生まれいでながら
土の名残も見せぬまま


清々と
あでやかな色を醸し出す


泥海に息づく
この花もまた同じ


まるで
するりと
土の殻を抜け出すように


汚れなきつぼみを
緑の上に現す


時は
たゆむことなく廻り続け


ひとひらひとひら
やさしきまじないをかける


風にゆらめき
雨に洗われ
陽射しに透けて


大輪に開く
その様まさに


薄絹の羽衣
幾重にもまといたる


天女の楚々と
佇むごとく


淡くも気高き花びらが
そっと包み守りしは


光を孕む
宝珠かとも見紛う


静寂のうち
緑の原を見渡せば


なんと
清澄たるその景色


浄土の池に咲くと言う
まことめでたき花よ


ほのか紅(くれなひ)に染む
蓮華うるわし



(写真 アルカディアさん)