ピアノ



誘われて
指先に踊るのは
月の光の雫たち


カーテンのほんの隙間から
ひっそりと射し込んで


ささやかなステージを
淡い銀色に塗り替える


ねえ
鍵盤て
なぜ 白と黒なのかしら


すべての光を集める白と
すべての色を重ねた黒


きっぱりと
鮮やかなコントラストから
いとも流麗に
紡ぎ出される音たちは


肩を並べ
時に反発し
競争し
手を取り合い


もつれたり
離れたり
愛をささやいたり
涙したり


なんというバリエーション
次々と繰り広げられるシーン


二色の鍵盤は
言葉よりも雄弁に
想いを溢れさせ
ドラマを作り上げて行く


優雅なワルツや
弾むようなマーチ
情熱的なラプソディも
たおやかなノクターンも


あなたの指先から
魔法のように生み出されては
煌きながら
静寂(しじま)の中へと霧散する


こころのままに
音の奔流に浸りながら


この凛然として繊細なる
一台の楽器に
全身全霊を預けられる一瞬


それはきっと
ミューズの楽園を
さ迷うような歓びなのでしょう


たったひとり
時を忘れて
弾き続けるピアニスト


その上気した頬には
かすかな微笑み


終わらない夜
深まる空は瑠璃色の天幕


ほら
カーテンコール


星たちが
さざめいているよ


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