かくれ里
もっと若かった頃に比べると
ええ、もうずいぶんと
上手に笑えるようになったと思うんですよ
見せたくない寂しさや
知られたくない哀しさや
ちくちく痛む
こころの様を
笑顔のついたての
蔭に隠して
いつもみたいに
冗談のひとつも
言えたりするのですけど
でも
時々
ぽっかりと
虚しさが口を開けたりして
無性に
ひとりになりたくなったりして
そんな日には
ふぅっと
こころを
行方不明にしてみようかと思うんです
ひっそりと草深い
鳥の声と葉擦れの音しか聞こえない
やさしいかくれ里に
すっぽりともぐりこんで
きゅっとうずくまって
誰にも場所は教えません
むき出しの
ひりひりするこころのまま
ぼんやり空を仰いで
遠い昔を
手繰り寄せたり
好きな歌を
口ずさんだりしてみます
ぽろぽろ
涙がこぼれても
あわててぬぐわなくていい
流れるだけ流してみます
ここは
私のかくれ里
さがさないで
さがさないで
見えない扉の
こちら側
時の流れを
少しゆるめて
こころの琴線も
少しゆるめて
しんみりした自由に
甘えてみましょう
そよ吹く風に
抱かれていましょう
大丈夫
きっとすぐに戻ります
ひとりがいいと言いきれるほど
強くはないから
人恋しさを思い出したら
誰かの声がなつかしくなったら
よいしょと立ち上がり
もとの笑顔をふわとまとって
のんびりふらりと帰ります
少しだけ軽くなったこころに
後押しされて
いつものペースで
歩き出します
だからそれまで
ほんのしばらく
ここにいさせて
誰も知らない
私だけのかくれ里に