遥かなれ



青々と広がる海に向かい
わたしは
サクサクと砂を踏む


乾いた砂は
歩いたそばから
またさらりと
もとの形に戻ろうとする


何くわぬ顔で


水際の湿った砂は
まるで吸いつくように
わたしの歩いた跡を記す


くっきりと


ああ
これがわたしの足跡なのか


振り向いた瞬間
打ち寄せる波の手のひらが
すっとかき消してしまう


そこに在るのは
さっきまでと同じ
水を含んだなめらかな砂だけ


ちっぽけなしるしなど
なんとたやすく
消えてしまうのだろう


そう
かまわない
足跡が欲しかったのではない


ただ
歩きたかったのだ


見晴るかす水平線へと
少しずつ鎮まりながら
豊かな碧が連なって行く


そのぎりぎりの波打ち際を
歩いてみたかったのだ


今 わたしの足元に
ひたひたと寄せる水は


くるりと踵を返したとたん
流れに乗り
果てしなくたゆたうのだろう


大きなうねりに飲まれながら
いつか海岸線を離れ
まだ見ぬ沖へと
その先の大陸へと


なんという
広大な可能性


羨望にも似たため息を
潮風がさらって行く


サクサクと


砂を踏みしめ歩いてきた
人が立つことのできる境界線まで


そしてここからは
こころが旅立つ


まだ見ぬものへの憧れに
ときめきながら
わたしは
みつめ続ける


海よ


数えきれない想いを抱いて
陽射しに煌く海よ


いつまでも


遥かなれ