この詩は、本館カウンタGET   
千華さんへ感謝をこめてm(__)m



深緋の剣

〜斎藤一〜




この京が
一面の緋色に包まれる季節が
またやってきた


闇の中ですら
それは
空を埋め尽くそうとする如く


じんわりと
したたかに紅い


そうだ
京を彩る紅葉は
時に怖ろしくなるほど


目を奪われ
目が離せなくなるほど
鮮烈に紅い


散り行く瀬戸際の
せめてもの
見せ場だとでも言うのか


その色は
陽射しに照り映えれば
美しく透き通るくせに


星もない夜の下では
じっと息を殺しながら


かすかな風にも
ざわざわと脈打つ
深く沈んだ緋となる


まるで
この地を攻めるため
そして護るために


おびただしく流されてきた
血の色のようではないか


ふと眉をひそめ
それでも
ここを動けずにいるのは
何故だろう


この血の色の中には
もちろん
己が剣から滴ったものも
数知れず混じっているはず


いかなる時にも
迷うことなく斬ってきた


命賭けの戦場(いくさば)に
情けなど無用


斬るか
斬られるか
いずれかなのだから


人を殺めるを好む剣と
忌まれたことも少なくない


考えるより先に
いつも
この手は剣に操られている


いや
剣が我を修羅にするのではない


修羅たる我が振るうからこそ
この剣は
修羅の気を帯びるのだろう


目の前を阻む者は
斃すのみ


そう思った瞬間
我が身は修羅と化す


それが
自ら選んだ道である限り
引くことも
悔やむこともすまい


天下の善悪を語るは
得手にあらず


ただ恩ある御方のため
我が腕が役立つなら


請け負いし任は
必ずや果たしてみせんと


そう心に定めて
走り続けてきた


今更
他に生きる術も持たぬ


ただ剣のみが
己が居場所へと繋ぎとめる


迷うな
揺らぐな


目線を上げ
頭上の緋色に向かって
すっと剣を抜く


ぎらりと
闇に光を放つ白刃


そこに映るのは
紅葉の色か
はたまた幻の紅か


たとえ
どれほど洗い流し
清めたとしても


このひんやりとした銀(しろがね)に
容赦なく飲み込まれていった
血の色は消えはしまい


いや
消すことなど
許されないのだろう


ならば構わぬ


我が運命
どこまでも
呪われた剣と共にあらん


いつか
力尽き
無残に斃れることになろうとも


この腕が
隊に必要とされる限り


どんな命にも従う
どんな相手にも立ち向かう


手の中で
ずしりと重みを増す
深緋なる血の色を
宿した剣よ


命果てるその日まで


どうか
我が決意
鈍らせるなかれ