Angel
きっとあの森には
わたしのもとから飛び立ってしまった
やさしい天使が棲んでいるのでしょう
光に透ける羽を隠し
ほんのひととき
わたしの側で微笑んでいた天使
深い緑の奥
風が走って行くたびに
笑い声のような葉擦れの音が
わたしを手招くけれど
木漏れ日が
光る道しるべのように
わたしの足元を
照らしてくれるだろうけれど
それでも
わたしは
一歩を踏み出すこともできず
美しい森に憩う
可憐な生き物たちをうらやむだけ
もしも
わたしがまだ
魔法のかけらを握っている
幼い子供だったなら
ためらいも忘れ
迷うことも怖れず
ほの暗い小路へと駆け込んだでしょう
もう一度
天使をみつけだすことを信じて
けれど
夢の続きをを見るには
わたしはたぶん
年を重ねすぎてしまった
わたしには遠い森へ
軽やかに帰って行った天使
たとえいつかまた
その羽で飛び立ったとしても
もう
わたしの目には
映らないかもしれない
偶然覗いてしまった
万華鏡のように
季節はくるくると姿を変え
同じ輝きのまま
巡ってはこないでしょう
通りすぎた瞬間
それは甘くなつかしい
思い出に姿を変えてしまうから
淡い煌きを放つ記憶を
そっと胸に収めて
わたしはひとり
幻の森をみつめ続ける
風にも光にも子供にも
そして
ものわかりのいい大人にもなれない
不器用なこころのままで