紫陽花便り



今年も
薄藍色の6月の国から
紫陽花便りが届きます


もうすっかり咲きましたよ
今が見頃ですよ、と


ひんやり湿り気を帯びた
大地の匂いが教えてくれます





風のない
やわらかく煙った空を
次々と雨の銀糸が


6月の天使たちが降りてくる
そんな午後には


お気に入りの傘をさし
ゆるやかな坂道を上り


淡淡とした花陰を作っている 
紫陽花を見に行きましょう



ここに辿り着いた天使たちは
きっととても幸せ


水色や薄紅や紫の
きれいな手のひらに受け止められ


ひととき
銀の水玉になって
留まることだってできるのです


花びらから滑り
今度は大きな緑の葉へ




大地に吸い込まれてしまうには
まだまだ遊び足りないとばかり


あちこち伝わり落ちる雫たちに
紫陽花も嬉しそう


だって
ころんと透き通った雨粒ほど
紫陽花を美しく飾ってくれる
宝石はないのですから





青空も眩い陽射しも
すっかり隠れてしまっているけれど


ここは
仄かに滲む水彩画の世界


ハープを爪弾くような
ひそやかな雨音に包まれて
ゆっくり時が流れます


心のポケットにしまわれた
紫陽花便り


空に向かってそっと
つぶやきの返事を出しましょうか


ありがとう
今年も会えてよかったと


(写真  涼)