「グレイソン攻防戦」

紅の勇者オナー・ハリントン(2)

表紙

デイヴィッド・ウェーバー 著/矢口悟 訳
カバーイラスト 渡邊アキラ
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワSF文庫
ISBN4-15-011294-0 \640(税別)
ISBN4-15-011295-9 \640(税別)

 巨大な仮装巡洋艦相手に軽巡洋艦"フィアレス"の性能ぎりぎりでの追撃戦を演じて一躍その名を高めたマンティコア王国軍の女性艦長、オナー・ハリントン。2年後、同じ名をもつ最新鋭の重巡洋艦"フィアレス"の艦長に着任したオナーへの最初の指令は、自分の恩師でもあるクールヴォルジェ提督を団長とする外交使節団の護衛任務。だが、その目的地、惑星グレイソンは、特異な信仰を持った人々による移民たちによって開拓され、さらにその過酷な環境下での生活から、女性たちからあらゆる権利が剥奪された世界であったのだ………。

 「銀河の荒鷲シーフォート」などと並んでニューウェーヴ・スペースオペラなどといわれる、ウエーバーの「オナー・ハリントン」ものの第2作。最近になってアメリカでは、昔懐かしい宇宙SFのスタイルを持ったエンタティンメントがちょくちょくと発表されているようです。いわゆる"ニュー・ウェーブ"や"サイバーパンク"などのジャンルSFの台頭で、少々SFが堅苦しいものになってしまったことから来る反動なんでしょうか。ま、シンプルに楽しめる作品が出てくるのはいいことです。

 さてこの作品、第一作がC・S・フォレスターに捧げられていることからもわかるとおり、極めて忠実に"ホーンブロワー"や"ボライソー"のシリーズのフォーマットをなぞっていて、そっちが好きな人なら二重に楽しめる作品といえるかもしれません。主人公のまわりに集まる忠実な部下、友人。無能な上司、圧倒的に不利な戦いを強いられる主人公、凄惨な戦闘シーンの描写、ってあたりですね。

 固いこと言わず、気軽に楽しめる作品なんですが、せっかくの"女性を徹底的に蔑視する文明"って設定があまり活かされなかったような恨みはあります。確かにそういう世界ゆえの特殊な状況は何度かあるんですが、主人公であるオナーが、その制度ゆえに自分の望む行動をことごとく阻害されて、みたいな表現がもう少しあると、最後の大団円(もちろん大団円で終わるんです。こういう作品は)の快感がもっと大きかったと思うんですけれどもね。

99/12/24

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