「オウム裁判」(4)

松本智津夫の意見陳述

表紙

 降幡賢一 著
 カバー装幀 神田昇和
 朝日文庫
 ISBN4-02-261260-6 \780(税別)

 会社の近くの本屋("アセンス"アメリカ村店。ちったぁちゃんと本揃えとけよまったくー、カッコばっか気にしてんじゃねーぞこら)に入ってこなかったので、買うのにちょっと手間が掛かってしまいました。林郁夫被告の判決に続いて、いよいよ裁判では麻原彰晃こと松本智津夫被告の意見陳述をメインに、展開する第4巻。新聞などでもこの、松本智津夫のおかしな英語を交えた2時間40分に及ぶ支離滅裂な意見陳述については、かなりの分量を割いて報道していましたが、その訳のわからないとも思える陳述の大部分は本書で読み直すことができます。

 ただ、著者である降幡さんは、この一見支離滅裂な、意味の通らない戯れ言でしかないようにみえる陳述の陰にこそ、松本被告の一種の追い詰められたがゆえの自己防衛本能の働きがあると分析します。すなわち、支離滅裂に見える論告のなかで唯一一貫しているのは、一連のサリン疑惑やオウムに対立する人物に対する殺害などの事件には、自分は一切係っておらず、信徒たちが勝手にやったことだという主張のみ。ここからはとても聖職者としての気概のようなものは感じられません。

 松本被告に関するこの下りも読み応えがありますが、それ以前の証人喚問における、中川智正被告と弁護人の間での証人喚問などもかなりの読み応え。少々興味本位な感想といえますが、一種のよくできた法廷ドラマを見るような気分にさせられます。

 ちょっと前に"裁判ゲーム"を読んでいたせいか、オウム事件以外にも、法廷における裁判官の動き、ちょうどこのあたりから松本被告と弁護団、弁護団と裁判所の間で先鋭化していた対立問題などについても、いろいろ考えさせられることが多かったです。はたしてこの裁判官は、真に公正な立場から今の発言をしたんだろうか?とかね。

 また、それ以上に考えさせられたのが、坂本弁護士一家の殺害事件に関すること。警察の初動捜査が遅れたことが、坂本さん一家とそのご親族にとって、最悪の結果を引き起こすことになったわけですが、この事件の管轄って、近ごろなにかと話題になる、神奈川県警だったんですねえ。もちろん神奈川県警の大部分の職員の皆さんは、日々地道に、真面目に職務を遂行されていると思うんですが、それでも昨今の報道を見てしまうと、このとき(オウムの存在を示唆する遺留品があったにもかかわらず)もっと迅速に捜査に着手していたら、あるいは、と思ってしまいます。ソレが神奈川県警が当時すでに腐っていた、とする根拠なのだ、てのは暴言に近いものであるのかもしれないですけど、でも、ねえ………。

99/10/7

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