「告解」

競馬シリーズ(34)

表紙

ディック・フランシス 著/菊池光 訳
カバー 辰巳四郎
ハヤカワ・ミステリ文庫
ISBN4-15-070734-0 \800(税別)

 アメリカにわたり、映画監督として着実に評価を固めつつあるわたし、トマス。30年前、英国の競馬界でおこった一人の女性の自殺事件をテーマにした映画を制作するため渡英したトマスは、かねてからの知り合いで今は死の床に臥せる老人の、いまわのきわの懺悔を聞かされることになる。なぜかその老人の懺悔と、現在自らが制作している映画の間に切り離せない関係があることが明らかになってきて………

 「競馬シリーズ」は全くもって困ったシリーズで、何が困るといって一度ページをめくりはじめると、なまなかなことでは次のページをめくることを止めさせてもらえない、ってのがあると思うんですよね。シリーズが進むにつれてストーリーや主人公と競馬の結びつきはともすれば薄くなりがちなところもあるんですが、でもやっぱりこれは"競馬"シリーズ。お話の重要なところで、主人公と馬の関係が大きな意味をもってくるんですよね。

 今回のお話は映画産業が舞台。毎回思うんですが、フランシスさんってこういう異業種(言うまでもなくディック・フランシスは、作家になる前は大変有名な騎手でした)の内情をどうやって調べるんでしょうね。ややきれいごと過ぎる嫌いなしとしませんが、でもフランシスさんの描写する(おそらく)ハリウッドの映画産業の舞台裏みたいなモノ、かなりリアリティを感じさせてもらえます。ここにいつも通りの悠揚迫らぬ堂々たるストーリー展開、いつもながらのディック節あーんど菊池光節が襲いかかってきたら、やっぱ途中でページをめくるのを止める気にはなりませんわな(^^;)。

 そう、私は認める。いい意味での強力な幻想の生活は、数え切れないほどの人々を退屈と抑鬱状態から救っている、と私は思う。それによって人々は個としての認識を抱く。あんたは完全に理解している。あんたは大概の人にとって幻想なのだ。

 映画界のスーパースターと映画について語り合う主人公のセリフ。むーん、かっこえー(^o^)

99/9/22

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