イギリス潜水艦隊の死闘

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ジョン・ウィンゲート 著/秋山信雄 訳
カバー写真提供 月刊 世界の艦船(発行 海人社)
ハヤカワ文庫NF
ISBN4-15-050278-1 \720(税別)
ISBN4-15-050279-X \720(税別)

国民揃って逆境ナイン

 地中海の小島、マルタ島。フランスは降伏し、イタリアによるチュニジア侵攻とその後のドイツ・アフリカ軍団の侵攻で、地中海に残る英国の足がかりはこの島だけだった。その地理的条件から、地中海を航行する船舶の大半を容易に要撃できるこの島に、残された戦力は絶望的に少ない。急遽本国から回航されたU級潜水艦隊の死闘が始まった…

 マルタ島攻防戦、というとキース・パークに率いられた英国空軍対ドイツ空軍(ちょっとイタリア空軍も混じる)の激戦が有名だし、潜水艦による通商破壊作戦と言えばこれはもう、ドイツUボートによる狼群(ウルフ・パック)作戦、特に北海でのそれが有名なわけなんだが、本書はマルタ島攻防戦に於ける英国潜水艦群の苦闘を、実際にこの戦いに参加した著者が克明に記録したノンフィクション。

 この戦いで英国の主力となったのはU級(アンダイン級)潜水艦。UボートだとⅦ型にちょっと足りないスペック、というか元が訓練艦として設計されたものだけに、魚雷発射管は前部のみに4門、魚雷の最大搭載数8本というあたり、少なくとも14発の魚雷を積んで航海できたUボートに比べるとかなり見劣りするものになっている。速力も遅く、潜行限度も割と低め、緊急潜行の速度がきわめて速い、というのが唯一の取り柄のこんな潜水艦で地中海の要衝を押さえ、敵の通商に打撃を与えようと考え、実際にそれを、かなり危ない時期もあったがやり遂げてしまうってあたりが実に英国くさい話だと思ってしまう。

 どうも英国人というのは、ぎりぎりのピンチに立たされないと本領を発揮しない、というか、なんだか自分でぎりぎりの瀬戸際に立たされるように、悪い方に悪い方に状況を持って行き、最後の最後で突然とんでもない力を絞り出すのが好きな国民性を持ってるように思えてくる。英本土航空決戦もしかり、アフリカに於けるロンメル相手の戦争しかり。そういえばナポレオン戦争もそんな感じの戦争だったかもしれない。

 たとえばこれが日本人だったら、勝ってる時は調子よく攻めまくるんだけど、いったん歯車が狂いはじめるととたんにどうしたらいいかわからなくなり、やけくその攻勢に転じて自滅、なんてパターンに自分から突っ込んでいってしまうんだけど、英国人ってのはそのあたり実にしぶといな。絶望的な状態でもあえて一発逆転なんて事は望まず、使えるモノとヒトを、その制限内で最大限の効果を上げられるような戦略をしっかり立てて巧みに立ち回り、耐え抜いて最終的には勝ちを手にする。踏んでる場数が段違いなのかもしれないけど、したたかにも程がある。ある意味逆境が好きなのかもしれないな。

 今じゃスーパーパワーとは言えない国になっている英国だけど、この国民性がある限り、容易に没落しきってしまうようなこともないんだろう。同じ島国でも、浮かれてる時と落ち込んだ時の落差がでたらめに大きいどこかの国とはえらい差じゃ。根性に裏打ちされた余裕、みたいなものを感じてしまいますわ。

03/08/25

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