眠り姫

表紙

ダニエル・キイス 著/秋津知子 訳
カバー装画 水野恵理
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ダニエル・キイス文庫(早川書房)
ISBN4-15-110111-X \740(税別)
ISBN4-15-110112-8 \740(税別)

 ところ構わず突然眠りこけてしまう、という一種の睡眠障害、ナルコレプシー。少女のころからこの障害に悩まされてきた女性、キャロルは、精神科医コーラ−の催眠療法を受けながらなんとか無事成人し、優しい夫と共にそこそこ平穏な暮らしを営んでいた。だがそんなキャロルと、夫ロジャーの生活は突然暗転する。突然の発作でキャロルが昏倒していた間に、二人の娘、エレナがボーイフレンドと共に射殺される、という事件が発生したのだ。事件当日、現場に一番近い場所にいたのはキャロル。新任の精神科医、アイリーンはコーラ−医師のキャロルを催眠状態に誘導し、深層記憶に残った事件の手がかりを見つけ出そうとする試みに立ち会う。キャロルが催眠状態で語る事実は、驚くべきものだった………。

 「五番目のサリー」と同系統に属する、サイコセラピーをバックボーンにしたキイスのミステリ仕立てのオリジナル・フィクション。今回のテーマは「催眠」。そういやちょっと前、日本でもそんなテーマのテレビドラマがあったような気がしますが、アレとの関連はよく知りませぬ。見てないし(^^;)

 ミステリとしてみるならば、ちょっとカンの働く人ならごくごく最初のほうで「真犯人」の予想はつき、半分ぐらい読み進めば、事件の動機とか、その裏に潜む真実(隠された衝撃の事実、ってヤツですな)についても何となく予想できるわけで、推理物としてはそんなに良質とも言えないものなんですが、睡眠障害、という新しいテーマ、催眠療法のディティルなどはさすがにこの分野のフィクション、ノンフィクションで次々と秀作を発表してきているキイス、充分読ませてくれますね。

 自らも精神的に万全ではない状態で、死刑囚の減刑の可能性を模索する主人公、アイリーンに対立する立場にある刑事、ストーンが憎まれ役としてなかなかいい味。後半やや唐突ともいえる詰め込み感もなきにしもあらずですが、読み応えのあるいい本ではないでしょうか。それにしてもアメリカって国はセラピーが盛んですねえ。アメリカという国が人の心に傷を付けやすい社会なのか、日本も実はそうなんだけど、こっちはアメリカに対してあまりにもこの手の患者に対するケアが進んでいないってことなのか、さて。

 そうそう、本書の原題は "UNTIL DEATH DO US PART"、「死が二人を分かつまで」ってな感じか。これもなかなか意味深でいいタイトルだと思うんですが、これに「眠り姫」というタイトルを付けた日本語版スタッフのセンスもなかなかのものだと思いますです、はい(^o^)。

00/6/26

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