リプレイ

表紙

ケン・グリムウッド 著/杉山高之 訳
カバー 佐野一彦
新潮文庫
ISBN4-10-232501-8 \667(税別)

 妻とは不和に苦しみ、将来の望みもどうやら実現しそうにないことが見えてきた、43才のラジオ局のディレクター、ジェフ。うつうつとした毎日はある日とつぜん断ち切られる。急な心臓の発作でジェフはオフィスで急死してしまった………はずだった。だが次の瞬間、ジェフはかつて学生時代にすごしていた、学生寮のベッドの上で目を覚ます。彼は一度死に、その後そこまでの記憶と知識を保持したまま、25年前の自分にタイム・スリップしてしまったのだ。………

 えー、SF界には時間を扱ったさまざまなラブロマンスがありまして、この分野ではジャック・フィニィの一連の作品をはじめ、名作が多数あったりする訳なんですが、本作もまた、そんな名作の一環にくわえるにふさわしい作品といえましょう。

 さて時間SFにはそれぞれ、作品ごとの趣向ってものがある訳で、それはたとえばタイムスリップした(たいていは)過去の世界の緻密な描写であったり、タイム・パラドックスを使った鮮やかな謎解きであったりする訳なんですが、本書の魅力はタイムスリップ自体の"シカケ"にあるといえますね。

 主人公、ジェフは突然の死亡の後、25年前にタイムスリップするのですが、彼が死んでしまう1988年10月18日まで人生をやり直すと、再び死んで、過去へとタイムスリップしてしまうんです。なんといいますか、海岸に波がどっぱーん、と打ち寄せる風景がありますが、ジェフの"リプレイ"人生ってのは、この、"どっぱーん"1回分を何度も何度も繰り返してしまう訳ですな。しかも単におんなじ"どっぱーん"ではなく、この周期にもう一個仕掛けがあるもので、ジェフと、後に登場するもう一人の時間旅行者、パメラはいろいろと辛い思いをする訳なんですが、このへんがなかなかよろしい。

 何度も同じ人生を繰り返すってことは、自分には人生のどこで取り返しのつかない失敗をやってしまったか、ちゃんとわかってるってことで、その気になれば次の人生ではその失敗をしないですます選択もできる訳です。なのに、以前の失敗を繰り返すまいとすればするほど、新たな人生には新たなままならなさが生まれてくる、ってあたりがなかなか。SFよりファンタシーの世界で高く評価されたってのもわかるような気がします。いやはや、時間SFってなあどうしてどれもこれも切なくなっちゃうんでしょうねぇ。

 ちょっと終盤、頭の悪いオレ的には計算まちごおてへんか?って気になってしまうことが一点ありまして、わたしゃそれが気になって気になってしかたがないんでありますが、それはそれとしていやこれはなかなか、良いお話でした。読むべし(^o^)。

00/5/15

前の本  (Prev)   今月分のメニューへ (Back)   次の本  (Next)   どくしょ日記メニューへ (Jump)   トップに戻る (Top)