失われた宇宙の旅2001

表紙

アーサー・C・クラーク 著/伊藤典夫 訳
カバーイラスト 渡邊アキラ
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワSF文庫
ISBN4-15-011308-4 \780(税別)

 SF映画というジャンルにとどまらず、世界の映画史上不滅の名作の一つであるといえる、キューブリックの"2001年宇宙の旅"は、SF界の巨匠、クラークの短編"前哨"を下敷きに作られた作品であることは知られていますがこの映画、もちろん件の短編をそのままスケールアップして映像化したようなものではなく、あくまでも"前哨"を映画のテーマのバックボーンの一つに捉え、映画においてはさらにそこから、クラークとキューブリックの間で、念入りな打ち合わせが行われたうえで造りあげられたモノであることは、皆さん良くご存じのことでしょう。その、果てしないディスカッションとダメ出しのなかで日の目を見ることがかなわなかったクラークによる"2001年"のためのストーリー案と、映画制作にまつわるいろいろなエピソードをまとめた本。

 純粋な小説という訳ではなく、もしかしたらあの映画は、こんな話(あるいは絵)になっていたのかもしれないな、てのを想像しながら楽しむ本。おもしろいのは、映画と小説はやっぱり違うよなぁ、ってとこでしょうか。おそらく実際に映像になったシーンも含めて、小説として読んだときに、SFとして"いかにも"なのはやっぱりクラークがいろいろ書いてるほうにこそ、ありそうな気がするんですよね。だけど、映像として見てみるならば、クラークの文章がスクリーンに表現されたところを想像してみると、どうにもぱっとしない印象が前に出てくるのも確かなところで(^^;)。映像技術の限界とか、そういう部分ももちろんあるんでしょうけど、それ以上に映像的なモノと文章との違いってのは大きいものなんだなと言う感じがします。

 おそらく映像っていうのは、全てが見えてしまうだけに、見せたくないモノをどう見せないか、て部分のテクニックが重要になってくるのに対し、文章の場合、見せたくないものであったとしても、なにも言わないですますことはできない、という違いがあるんじゃないかと思います。いきおい、文章で書かれた風景は、それを映像として想像したときに、どうにも陳腐なものが浮かび上がってきてしまうんではないかと。結局"2001年"は(あちこちに食いつきの悪い部分が確かにあるにせよ)ああいう形でしか完成し得なかったし、そのように完成したからこそ、映画史上屈指の傑作になったってことなんでしょうねえ。

 とはいえいろんな意味で興趣のつきない一冊。伊藤さんの解説も読み応えがあります。またあの映画が観たくなっちゃったな、ちゃんとスクリーンで(^o^)。

00/5/1

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