「裏切りの銃弾」

刑事エイブ・リーバーマン

表紙

スチュアート・カミンスキー 著/棚橋志功 訳
カバーデザイン 亀海昌次
写真提供 amana images
扶桑社ミステリー文庫
ISBN4-594-02860-8 \619(税別)

 深夜のシカゴ。腕利きの刑事として知られるベテラン、バーニー・シェパードは妻の不倫の現場に乗り込み、妻と不倫相手をショットガンで射殺。そのままとあるビルの屋上にたてこもる。一報を受け現場に急行する老刑事、リーバーマンだったが、シェパードはそのビルに強力な爆薬を仕掛け、まわりからの侵入に万全の備えをした上で、一つの要求を彼につきつけた………。

 シカゴに住むユダヤ系の老刑事、エイブ・リーバーマンを主人公にしたシリーズの第三弾。ただし原書の順序でいうならばこれは日本での前作、「愚者たちの街」に続くシリーズ第二作。日本での邦訳第一弾、「冬の裁き」は実は本書に続くシリーズ第三作になるそうです。この、原書のシリーズを無視するような邦訳は「冬の裁き」の時に気になって文句つけたんですけど、そういえば最近日本でも人気のスティーヴン・ハンターのボブ・スワガー物なんかも結構順番は無茶苦茶なようで、困ったもんです。特にこちらのシリーズでは、本書で登場するある人物が、「冬の裁き」で大変重要な役割を演じるだけにその気持ちもひとしおといったところか。

 そのあたりに少々文句はあるんですが、お話自体はとてもいいもので、お薦めです。同じ時期の話題シリーズが件のボブ・スワガー物だったりするんですけど、リーバーマン物のほうが僕は数段好きですね。なんといっても登場人物たちがみな魅力的。ユダヤ系(ということはつまりユダヤ教徒である、ということ)の老刑事、リーバーマンは60才。時に足腰の痛みに悩み、夫婦生活の不調に悩む娘の相談を受け、近所づきあいにも気を配りつつ、ひとたび事件が発生すれば相棒(これまた魅力的)のハンラハンとシカゴの街を歩き回る彼が大変魅力的。脇役として登場するリーバーマンの兄が経営する食堂に集まる老人たちや警察の同僚たち、さらには犯罪者たちもみなそれぞれに魅力があって読ませます。「冬の裁き」の解説でもちょっと触れられていましたが、確かに藤沢周平さんの時代小説のテイストが感じられますな。

 これから読もうかな、って方には大変好都合なことに、序盤の三作が揃いました。ぜひ「愚者たちの街」「裏切りの銃弾」「冬の裁き」の順番でお読みになることをお薦めしますです、はい。そうそう、最後になりましたが解説は林家こぶ平さん。こちらも穏やかな人柄がほの見えて(いや、ご本人がそうなのかは存じあげないんですけど)なかなかよろしいですよ。

00/3/10

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