「模造世界」

表紙

ダニエル・F・ガロイ 著/中村融 訳
カバー写真提供 ソニー・ピクチャーズ・エンタティンメント
創元SF文庫
ISBN4-488-71301-7 \580(税別)

 ちょっとヤバそうな予感なしとしないでもないですが、あの、エメリッヒさんが製作(監督ではないようですな)するSF映画、「13F」の原作。発表されたのは1964年ということですから、ずいぶんと昔の本なわけですが、それが却って、最近の小細工満開のSFシーンではちょっと新鮮な感じを与えてくれたりするのが興味深いところ。

 全人口の4分の1近くが、公認世論調査員の職についている地球。この世界でもっとも重要なのは、いかに大衆のニーズを掴み、大衆が望むものを供給していくかにあった。この世界で今、一つの革新的な技術が生まれようとしている。シミュレクトロニクスと名づけられた、電子的な仮想社会シミュレータ。電子回路上にもう一つの社会を作り出し、この社会の動きを追跡することによって、世論調査システムをはるかに超える未来予測を得ようと言うのだ。シミュレクトロニクス技術の開発の中心人物の一人、ダグは、いよいよ完成間近の自分のシステムを前に、しかし妙な引っかかりを併せて感じていた。彼の同僚で、シミュレクトロニクスの生みの親ともいうべきフラー博士が、システムの完成を前に忽然と、文字どおり「消えて」しまったのだ。ことの真相を突き止めようとするダグだったが、彼が調査しようとする対象の人物、証拠品などもフラー博士同様次々と「消えて」行く。革新的なシステムの完成を前にしたこの世界で、今何が起ころうとしているのか………

 その発表時期や、おおざっぱなお話を見てもらってもわかるとおり、ディック的な世界観とかなりダブると言うか、共通したモノを感じる作品です。それゆえか意地の悪い読者なら(^^;)、途中でお話のシカケに気がついちゃうかもしれないですね。でも、だからといってこの作品がつまらないというわけではありません。ディックの悲観的でゆっくり目のストーリーの組み立てとは対照的に、ガロイさんの作品はテンポ良く、スピーディーかつメリハリの効いたモノとなっていて楽しく読んでいけます。映画の出来がどういうものであるのか(解説を読むと、それなりに期待できるのかな、とか思えたりもするんですが)はもとよりわかりませんが、原作である本書のほうはストレートな、アイディアの効いたSFミステリとしてなかなかいいのではないかと思います。なんか最近昔の作品ばっかり喜んでるような気もして、オレ的にいかんなあ、と思ったりもするわけですが(苦笑)。

00/1/19

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